シンメトリー
評価:★★★★★
ミステリー短編集。全七話。
--- 梗概 -------------
百人を超える死者を出した列車事故。原因は、踏切内に進入した飲酒運転の車だった。危険運転致死傷罪はまだなく、運転していた男の刑期はたったの五年。目の前で死んでいった顔見知りの女子高生、失った自分の右腕。元駅員は復讐を心に誓うが...(表題作)。ほか、警視庁捜査一課刑事・姫川玲子の魅力が横溢する七編を収録。警察小説No.1ヒットシリーズ第三弾。(「BOOK」データベースより)
-----------------------
甘やかすと、それが当たり前になり、そのうち不満を言いだす。それは相手の克己心の無さが悪いのか、甘やかす私が悪いのか。
・・・そして人の死は、死をもってしかあがなえない。金を借りたら、利子をつけて返すのが礼儀だろう。だが奪ったのが命では、そうはいかない。だからせめて元本は返せ。自分の命で返せ。
(P96より)
姫川シリーズ初の短編集です。
・・・よかった!!一冊で七度おいしい!!(*´∀`*)ただやみくもに七話詰め込んで一冊にしましたってんじゃ全然なくて。
一話目の『東京』は、刑事になって間もない25歳の姫川が主人公。現在の彼女の刑事としての生き方を決める一因となった事件が描かれている。これが、その後に続く話をより楽しませるいいアペリティフとなっている。
その後続くのは、飲酒運転、少年犯罪、心神喪失者による犯罪、全てを社会のせいにする無責任な人々・・・etc。現代日本がかかえるジレンマや問題を巧妙な筆致で浮き彫りにする。
『過ぎた正義』では、少年犯罪、心神喪失者による犯罪を描いている。
(強)姦殺人という重罪を犯しながらも、無罪となる奴、一年という短い期間で社会に戻る奴がいる。前者は心神喪失、後者は少年という理由で。やすやすと社会に戻る彼らを待ち受けるのは、彼ら自身の“死”であった!!彼らの死は偶然?それとも・・・?
詐病や少年法の問題にも言及しており、考えさせられる。犯した罪にそぐわぬ量刑が下される現実にうちのめされ、やるせなさに苦しめられ続ける犯罪被害者とその遺族。彼らのやるかたない苦悩・煩悶に、こちらも懊悩させられる。
法治国家である以上、個人の手による復讐は許されない。でも、そんな理屈じゃやるせない煩悶は消えない。
そのジレンマがうまく描かれている。そして、その結果は許されるものではないが、それでも溜飲を下げてしまうのが常人の忌憚なき率直な感情だろう。
自由の意味をはき違え、責任もとれないくせに気ままにふるまう。口をひらけば自由や権利。何もわからないのに、わかったつもりの小賢しいガキどもを喝破する姫川には拍手を送ってしまう。
未成年だろうがなんだろうが、社会の一員として生きるなら、それ相応のルールは守れといいたい。それが守れないのなら、社会から排除される覚悟をするべきだ。 (P126より)
原則としての法律が守れない最低の人間に、自分の中のどうにでもなる決め事なんて守れるはずがないのよッ (P138より)
こんなセリフに胸がすく。
また、ガキだけでなく、どうしようもない無責任な大人にも姫川は怒りを禁じえない。何かあれば、他人のせい。環境のせい。社会のせい。決して自らを省みることをしない大人。
最近漠然とだが、なんでも他人のせいにする人間が増えてきているように感じる。だがそういう輩に限って、自分がどれほど社会に害を及ぼしているかは考えない。社会が悪いといいながら、自分が社会を悪くしていることには一切頓着しない。 (P224より)
そんな大人に接するたびに、姫川はこう感じずにはいられない。
他にも多角的に犯罪を描いており読み応えがあります。短編ではありますが、一話一話に重みがあって深みがあって、密度の高い話ばかり。短編って、玉石混交なことが多いですが、これは玉ばかりでした(笑)
ただ、最終話『手紙』は少し肩透かしかな。それまでの深み・厚みが嘘のように薄っぺらな印象を受けた。
竜頭蛇尾とまでは言わないけど、せっかくのフルコースも、ディジェスティフがいまいちだと消化不良になっちゃう。それが少し残念でした。
でも、とにかく全ておもしろい!!構成もよくって、短編でありながら長編のようなスムーズな流れで全てを読むことができる。素晴らしいーーー!!余は満足じゃ♪(笑)
=== 32冊目 読了 ===