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池澤夏樹「熊になった少年」(スイッチ・パブリッシング)
「ゴールデン・カムイ」という漫画を読んでいると、アイヌの人たちにとっての「熊」の存在が、かなり詳しく描かれていて、そのあたりがこの漫画の面白さのひとつです。エゾオオカミとかヒグマとかは、山の神、カムイなんですね。 「防御服を着てないから、よけていくのかな」 なんて、まあ、ヤッパリ、ちょっとポカーンとする世界なんですが、だいたい、この作品の「くま」ってなんなんだろう?って思っちゃいます。 そういえば多和田葉子の「雪の練習生」という作品では「白クマ」が主人公でした。たしか、あの「白クマ」は飛行機に乗ってカナダかどっかへ出かけていったはずでしたが。 「小十郎の葬儀」の話が気にかかって、ネットをウロウロしていると、奥野克己という方の「空き地」(ここをクリック)というブログ(https://www.akishobo.com/akichi/okuno2/v9)に全部まとめた話が出ていて、そこで出会ったのが、池澤夏樹「熊になった少年」(スイッチ・パブリッシング)でした。 このブログでは、奥野さんは「アニミズム」について論じていらっしゃっていて、とても興味深いわけですが、ここでは「熊」がでてくるお話として案内しますね。 池澤夏樹さんには「静かな大地」という北海道を舞台にした長編小説があります。幕府の瓦解を機に、淡路島から北海道の静内というところに移住した、作家自身の母方のルーツを描いた作品です。その中にでてくる、山の神を祭らないトゥムンチの一族の少年の悲劇を描いたのが「熊になった少年」です。 「静かな大地」は半分はアイヌの話で、本文の中にアイヌの民話や神話をいくつか象嵌した。それは古老の語るのを聞き書きしたものを和訳した、神聖な民話・神話だった。しかし最後に沿える話は捏造することにした。自分の中で木が熟していたのか、まことしやかな民話がすらすらと出てきた。 これが、この作品についての作家のことばです。表紙の北海道の森と熊の姿が印象的で、ここからおしまいのページまで、美しい本です。 「今は、わたしたちの嘆きの歌がこだまするばかり。」 島フクロウのこんな嘆きのことばで物語は終わります。お話は読んでいただくとして、坂川英二さんという北海道出身のアーティストが描いた「熊」や「鮭」の挿絵が何ともいえずいいとおもいました。 追記2020・01・27「ゴールデン・カムイ」(一巻)・(二巻)の感想はここをクリックしてください。 追記2023・03・04 「ゴールデン・カムイ」(集英社)は2022年に全31巻で完結しましたが、物語としては、ちょっとトンボ切れだったんじゃあないかという感想でした。もっとも、感想、ご案内もトンボ切れで、いつになったら完結させられるのかわかりません(笑)。 そういえば、池澤夏樹さんの「静かな大地」(朝日文庫)も、いつの間にか文庫になっていましたが、ご案内できないままです。単行本は古本市場で200円くらいですがが、文庫本は版元品切れで1700円とかになっていて、何が何やら分かりません。作品は読みでのあるいい小説ですよ。 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.11.09 23:40:13
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