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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.01.30
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​エランベルジェ原作・中井久夫文・絵「いろいろずきん」(みすず書房)

 精神科のお医者んの中井久夫さんが、フランスのお医者さんのエランベルジェさんの童話に、自分で挿絵を描いた絵本があります。「いろいろずきん」(みすず書房)という題です。絵本の最初のページで、原作者のエランベルジェさんがこの童話を書いた動機をこんなふうに話しています。​​​​​

​かわいいまごたちへ
きみたちに赤ずきんの話をしたら
「赤ずきんしかいないの?青ずきんがいないのはおかしい、
もっといろいろな色のずきんががあるはずだ」と言ったね。
そりゃそうだ。どうして気がつかなかったのだろう。
そこで、いろいろな色のずきんの話をさがした。
どこかにあったかって?
​それよりも、まず、読んでくれたまえ。​​
​ この絵本には「黄色」・「白」・「バラ色」・「青」・「緑」のずきん、帽子ですね、を着た少年や少女が登場します。その子供たちが、いろんな夢を見たり冒険したりする五つの物語が入っています。
 
​ちょっと「青ずきん」の冒険のシーンを紹介しますね。
​ 青ずきんは、ボートをじぶんで動かしてみたくなりました。杭から綱をほどいて、海にうかべました。オールを動かし見ますと、ちゃんとボートは動きます。「わたしだって、できる」と青ずきんは、ボートをこいで、岸からはなれてゆきました。
 はっと、気がつくと、沖に出ていました。岸は小さく小さく見えます。ボートの向きを変えようと思いましたが、どうしたらよいかわかりません。吹く風も、海の水の流れも、ボートをどんどん岸とは反対の方向に流します。そのうち波が出てきて、ボートはおもちゃのようにふりまわされました。
​ 特別に大きな波がやってきて、もうだめだ、と目をつむったとき、海が急におだやかになりました。イルカが歓迎するようにまわりを飛びはねました。​
​ ​さあ、「青ずきん」にはここから、どんな冒険が待っているのでしょう。それは、この絵本を手に取って確かめてください。​
 
​​絵本の最後には、翻訳して絵を描いた中井久夫さんの丁寧な解説がついています。「五人のずきんたち」について、精神科のお医者さんらしい優しく丁寧な解説です。ぼくはその最後に中井さんがこう書いているの惹かれました。​​
​ どのずきんも、話の終わりには「いい子」になったようにみえますが、精神的には一まわり大きくなり、自立し、成長しています。
 ​また、「いろいろずきん」は。子どもの目にうつる大人のすがたが成長につれて変わる物語でもあります。アリエスは、大人による「子どもの発見」という本を書きましたが、これは、子どもによる「大人の発見」の本です。大人が読む意味もあるでしょう。​​
​ ​​​人と人との関係には「向こう側」と「こっち側」があるということを穏やかに語っている、このニュアンスがぼくは好きなんです。ちなみに、文中のアリエスというのは、「子供の誕生」(みすず書房)を書いた歴史家フィリップ・アリエスのことですが、いづれまた「案内」したいと思っている人ですね。​​​
 
​​最後に原作者エランベルジェについては、中井久夫さんのこの解説をお読みください。​​​
 原作者アンリ・フレデリック・エランベルジェ1905-1993)は精神医学者で精神医学史家です。南アフリカのザンベジ川上流に、スイス系フランス人宣教師の子供として生まれ、豊かな自然の動植物と共に幼年時代を過ごしました。九歳の時、突然、ヨーロッパに送られて教育を受けますが、第一次世界大戦によって親との連絡が立ち切れたまま、中学を終え、教養課程で歴史を学んでから、パリ大学医学部を出て精神科医となります。ロシアから亡命してきた夫人と結婚したエランベルジェは生活のため西フランスの小さな町で開業し、その土地の風俗や迷信がアフリカと変わらないのに気づきます。そういう経験が、全部、この童話の栄養になっているでしょう。
​ なお、彼は、1979年に日本に来て、多くの人と親交を結びました。わたしもその末席に連なっていました。
​ 挿絵は、主に主人公の目から見たように書こうとしました。精神科医が相手の身になろうとつとめるのと同じでしょうか。​

 ​​余談ですが、我が家のこの本はチッチキ夫人の宝物です。あだやおろそかに扱うことは許されません。表紙の裏には著者直筆のメッセージとサインがあるのですから。

​追記2022・05・28

 最近​「カモンカモン」​という映画を観ていて思い出しました。子供らしさや素直な子供、成長や発達、保護したり教育したりという子供理解も大切かもしれませんが、同じ社会の中で大人と同じ人間として生きている子供を忘れているのではないかという問いかけを感じたからです。
 アリエス「子どもの誕生」(みすず書房)の案内を、とか言っていましたが、読み直すことさえできていません。普通の人間の普通の生活の中の感情や死生観を歴史として書いたアリエスが最後に残したのは「死の歴史」(みすず書房)ですが、もう一度、その2冊を読み直したいと思っています。
追記2023・01・19

​​​ 中井久夫さんのお仕事の中で、ご本人の医者としての論文や、エッセイはすぐに手に取ることができるわけですが、難儀なのが翻訳です。サリバンやエランベルジェなどの海外の精神科医の仕事の翻訳、カバフィスはじめとするギリシアの詩や、ヴェレリーの詩の翻訳なんかは、著作集を確認したわけではありませんが、意識して探さないと気付けないかもしれません。中井久夫という人の大きさというか深さというかがが翻訳の仕事にはあるような気もします。ここで案内しているのは子供向けの絵本で、エランベルジェの翻訳ですが、内容は中井久夫さんのオリジナルなんじゃないかという気もします。マア、一度、探して手に取ってみてください。​​​

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最終更新日  2023.01.19 21:31:43
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