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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.04.11
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​​​​​​​レイモンド・ブリッグス「風が吹くとき」あすなろ書房

​​​​​「エセルとアーネスト」​というアニメーション映画に感動して、知ってはいたのですが読んではいなかったレイモンド・ブリッグスの絵本を順番に読んでいます。今日は「風が吹くとき」です。こういう時に図書館は便利ですね。​​
​ 彼の絵本は「絵」の雰囲気とか、マンガ的なコマ割りで描かれいる小さなシーンの連続の面白さが独特だと思うのですが、ボクのような老眼鏡の人には少々つらいかもしれませんね。
​​ 仕事を定年で退職したジムと妻のヒルダという老夫婦のお話しで、彼らは数十年間真面目に過ごしてきた日々の生活を今日も暮らしています。

​​「ただいま」「おかえりなさい」
「町はいかがでした?」
「まあまあだな。この年になりゃ、毎日がまあまあだよ。」
​「退職したあとはそんなもんですよ」​​

​​ ​​こんな調子で、物語は始まります。妻ヒルダのこの一言のあと、無言で窓から外を眺めながらたたずむ夫ジムの姿が描かれています。

 小さなコマの中の小さな絵です。で、ぼくはハマりました。当然ですよね、このシーンは、ぼく自身の毎日の生活そのものだからです。このシーンには「普通」に暮らしてきた男の万感がこもっていると読むのは思い入れしすぎでしょうか。​​
​​​​​ ​​「核戦争」が勃発した今日も、二人はいつものように暮らし続けています。そして・・・。という設定で評判にになった絵本なのですが、読みどころは「普通の人々」の描き方だとぼくは思いました。
 例えば妻の名前ヒルダは、読んでいてもなかなか出てきません。彼女は夫に「ジム」と呼びかけますが、ジム「あなた」と呼ぶんです、英語ならYOUなんでしょうね、妻のことを。そのあたりのうまさは絶品ですね。​​

 ​​​​
物語の展開と結末はお読みいただくほかはないのですが、最後のページはこうなっています。これだけご覧になってもネタバレにはならないでしょう。
 「その夜」、二人はなかよく寝床にもぐりこみます。そして、たどたどしくお祈りします。イギリスのワーキング・クラスの老夫婦のリアリティですね。ユーモアに哀しさが込められた台詞のやり取りです。​​

​​「お祈りしましょうか」
「お祈り?」
「ええ」
「だれに祈るんだ?」
「そりゃあ・・・神様よ」
「そうか・・・まあ・・・それが正しいことだと思うんならな…」
「べつに害はないでしょう」
「よし、じゃあ始めるぞ…」
「拝啓 いやちがった」「はじめはどうだっけ?」
「ああ…神様」
「いにしえにわれらを助けたまいし」
「そうそう!つづけて」
「全能にして慈悲深い父にして…えーと」
「そうよ」
「万人に愛されたもう…」「われらは・・・えーっと」「主のみもとに集い」「われは災いをおそれじ、なんじの笞(しもと)、なんじの杖。われをなぐさむえーっとわれを緑の野に伏せさせ給え」「これ以上思い出せないな」
「よかったわよ。緑の野にっていうとこ、すてきだったわ」​​
 ​​​​​​「エセルとアーネスト」​レイモンド・ブリッグスが描いていたのは、彼の両親の「何でもない人生」だったのですが、ここにも「何でもない」一組の夫婦の人生が描かれていて、今日はいつもにもまして、まじめに神への祈りを唱えています。
 明日、朝が来るのかどうか、しかし、この夜も「普通」の生活は続きます。
 ここがこの絵本の、​「エセルとアーネスト」​に共通する​「凄さ」​だと思います。この​「凄さ」​を描くのは至難の業ではないでしょうか。自分たちの生活の外から吹いてくる「風」に滅ぼされる「普通の生活」が、かなり悲惨な様子で描かれています。しかし、この絵本には​「風」​に立ち向かう、穏やかで、揺るがない闘志が漲っているのです。
 この絵本はブラック・コメディでも絶望の書でもありません。人間が人間として生きていくための真っ当な「生活」の美しさを希望の書として描いているとぼくは思いました。 
 今まさに、私たちの「普通」の生活に対して​「風」​が吹き荒れ始めています。​「風」​はウィルスの姿をしているようですが、「人間の生活」に吹き付ける​「風」​を起しているのは「人間」自身なのではないでしょうか。ブリッグスはこの絵本で「核戦争」という​「風」​を吹かせているのですが、「人間」自身の仕業に対する厳しい目によって描かれています。今のような世相の中であろうがなかろうが、大人たちにこそ、読まれるべき絵本だと思いました。​​​

追記2020・04・10
 ​​​​「エセルとアーネスト」の感想はこちらから。
追記2022・05・17
​​ 2年前にこの絵本を読んだ時には「新型インフルエンザ」の蔓延が、普通の生活をしている人々にふきるける「風」だと案内しました。世間知らずということだったのかもしれませんが、今や、絵本が描いている「核戦争」「風」が、現実味を帯びて吹き始めているようです。
​​
​​​ 「戦争をしない」ことを憲法に謳っていることは、戦争を仕掛けられないということではないというのが「核武装」を煽り始めた人々の言い草のようですが、「核兵器」を持つ事で何をしようというのか、ぼくにはよくわかりません。「戦争をしない」ことを武器にした外交関係を探る以外に、「戦争をしない」人の普通の暮らしは成り立たないのではないでしょうか。
 追記2024・08・04

​​アニメの​「風が吹くとき」​を見ました。1986年に作られたアニメの日本語版でした。絵本よりもきついです。感想をブログに載せました。上の題名をクリックしてくださいね。​​

​​​
追記
 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​
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最終更新日  2024.09.26 23:04:37
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