「100days100bookcovers no7」
ポール・オースター「幽霊たち」(訳:柴田元幸 新潮社)
1日、空いた。
前回のSODEOKAさんの「八百万の死にざま」の記事を読んで、次は「ニューヨーク」しかないなと思い、最初に思う浮かんだのが、これ。
ポール・オースター「幽霊たち」(訳:柴田元幸 新潮社)
いわゆる「ニューヨーク三部作」の二作め。一作めが『ガラスの街』、三作めは『鍵のかかった部屋』。
個人的には、このニ作めが一番記憶に残っている。
例によって展開はほとんど覚えていないのだが、鮮烈な書き出しのイメージは強い。
まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる。
ブラウンがブルーに仕事を教え、こつを伝授し、ブラウンが年老いたとき、ブルーがあとを継いだのだ。物語はそのようにしてはじまる。舞台はニューヨーク、時代は現代、この二点は最後まで変わらない。
ちょっと芝居の脚本めいたところがあるのには理由がある。柴田元幸の「訳者あとがき」によれば、この作品、作家が以前に書いた戯曲を下敷きにしているそうだ。ちなみにこの「訳者あとがき」、非常にわかりやすくこの小説の個性を伝えている。
設定を紹介しておくと、ブルーは、ホワイトから、向かいのアパートの一室にいるブラックを見張り、報告書をホワイトに送るという仕事の依頼を受ける。
ブルーは仕事をブラウンの下で学んだ。
難しくない仕事に思えた。たぶん浮気調査だろうとブルーは思う。しかし‥‥。
「物語」がどう展開するのか、あるいは、しないのかを確認するために、ネット上で「あらすじ」の記事を探し、それを基に終盤を中心に読み直してみた。すっかり忘れていた。こんな話だったんだと驚く。思っていたよりずっとおもしろい。
本筋に直接関わらない(はずの)、エピソード的な挿話も読ませる。
冒頭から予想される「ハードボイルド」なムードは、読み進むにつれ初めは徐々に、後には加速度的に裏切られていく。
センテンスは短く具体的。しかしそこから、少しずつ、不穏で不気味な影が覗くようになる。
存在の足元を掬われるような不条理の感覚、アイデンティティと他者の関わり方、といった要素は極めて同時代的。
そしてなんとこの小説の最後のページに「中国」という言葉が2度。それも『中国行きのスロウ・ボート』と同じ意味で。おもしろい。
では、SIMAKUMAさん、次回、お願いします。(2020・05・18 T・KOBAYASI)
追記2024・01・18
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