|
ペテル・べブヤク「アウシュヴィッツ・レポート」シネ・リーブル神戸 ヨーロッパ映画を観ていると、アウシュビッツ、ナチス・ドイツにかかわる作品が毎年一定数制作されていることに気づきます。つい先日見た「復習者たち」もそうですし、「キーパー」、「名もなき人生」、「ヒトラーに盗られたうさぎ」etcと、いくらでも数え上げられます。べつに意識して選んでの鑑賞ではありません。しかし、ヨーロッパには「アウシュビッツ映画」が、単なる「思い出物語」としてではなく作られ続ける理由があるのでしょうね。
今回見たのはペテル・べブヤクPeter Bebjakというスロバキアの監督の「アウシュヴィッツ・レポート」という作品でした。スロバキア、チェコ、ドイツの合作だそうです。 1942年にアウシュヴィッツに強制収容された二人の若いスロバキア系ユダヤ人が、2年後の1944年4月に収容所を脱走し、アウシュヴィッツの内情を描いたレポートを赤十字に提出します。そのレポートが「ヴルバ=ヴェツラー・レポート(通称アウシュヴィッツ・レポート)」と呼ばれて、連合軍に報告され、12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送されるのを免れたというお話でした。 映画は脱走する二人とそれを命がけで支える仲間たちのサスペンスフルな展開で始まります。すでに死体の山があり、収容されている人たちが平気で殺されたり殴られたりするシーンが繰り広げられます。見ている側は二人が脱出に成功することを知っていますから耐えられますが、「もし、これが現実であれば」と想像するとどうでしょうね。 ぼくは、こういうドキドキや残酷シーンは、もう苦手だなと感じる年齢を意識しました。 で、印象に残ったことが二つありました。 ひとつは収容所のドイツ人将校の描き方でした。ラウスマンというナチスの伍長ですが、彼が最前線に出征していた自分の息子が戦死したことを嘆き、それを訴えながら収容者を拷問するというシーンです。異様でした。 哲学者ハンナ・アーレントに「エルサレムのアイヒマン」(みすず書房)という本がありますが、そこで論及されていた「無思想性」ということを思い出しました。 実は、この将校のふるまいは、平和で民主的だと思い込んでいる社会でも、様々な場所で繰り返されていることではないのか、そんな疑いですね。 もう一つは、脱走に成功した二人を救助し報告を受け取った赤十字の職員の反応でした。「人道的に救助することはできるが、ドイツを批判することは‥‥」というシーンですが、リアルだと思いました。 二人は「今すぐ収容所を爆撃してくれ。」と迫るのですが、実行されたのは半年以上後でした。赤十字の職員の反応のリアリティも、ある意味、現代的だと思いました。 ドイツ、ポーランドのみならず、この作品のように東ヨーロッパや北欧諸国でもナチス映画は撮られ続けています。だからといって繰り返しというわけではありませんね。たとえば、この映画にも感じましたが、監督の感覚の現代性というか、現代の社会に対する「危機感」が歴史を見直そうとしていて、そういう作品を作ろうとしているヨーロッパの表現者たちの熱意に好感を持ちました。 疲れましたが、後味は悪くない作品でした。拍手! 監督 ペテル・べブヤク 製作 ラスト・シェスターク ペテル・べブヤク 脚本 ジョゼフ・パシュテーカ トマーシュ・ボムビク ペテル・べブヤク 撮影 マルティン・ジアラン 美術 ペテル・シュネク 衣装 カタリナ・シュトルボバ・ビエリコバー 編集 マレク・クラーリョブスキー 音楽 マリオ・シュナイダー キャスト ノエル・ツツォル(アルフレート・逃亡者) ペテル・オンドレイチカ(ヴァルター・逃亡者) ジョン・ハナー(ウォレン・赤十字職員) ヤン・ネドバル(パヴェル・ユダヤ人) ミハル・レジュニー(マルセル・ユダヤ人) フロリアン・パンツナー(ラウスマン・ナチス伍長) ボイチェフ・メツファルドフスキ(コズロフスキ・ユダヤ人点呼係) ジュスティナ・ワシレウスカ(森の女) ルカサス・ガルリッキ(道案内・義弟) 2020年・94分・PG12・スロバキア・チェコ・ドイツ合作 原題「The Auschwitz Report」 2021・08・20‐no78シネ・リーブル神戸no114 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.07.08 21:09:44
コメント(0) | コメントを書く
[映画 マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、スロベニアの監督] カテゴリの最新記事
|