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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.09.18
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​​​​​カート・ヴォネガット「これで駄目なら」(訳 円城塔・飛鳥新社)​​​​ 言わずと知れたカート・ヴォネガットですが、図書館の棚で見つけて読みました。
 書名は「If this isn‘t nice,what is?」、訳すと「これで駄目なら、どうしろって?」だそうです。2015年の出版で、出版社は飛鳥新社、作家の円城塔さんが訳しています。​​​​

​​​ どんな本かというと、あのカート・ヴォネガットが、大学の卒業式に呼ばれて、当然、卒業生相手にスピーチした、まあ、日本風に言えば「講演集」です。もう少し説明してもいいのですが、訳をしている円城塔さんが、面白い「訳者あとがき」を書いていらっしゃるので、それを少し引用します。​​​
 声(ヴォイス)と呼ばれるものがある。
 分かるようなわからないような考え方だ。「誰々の書く文章には声がある」というように使う。魂がこもっている、というような意味に近く、本来は記号の羅列にすぎない文章に命を吹き込んだりする。
 長年、この「声」なるものがよくわからずにいたのだが、もしかすると、と思い始めた。ヴォネガットが書いたり話したりするときに流れるあれのことではないのだろうか。
 この「声」なるものには人智を超えたところがあって、死せる文字列に息吹を与えるわけだからそれはすごくて当然なのだが、ほんの短い一言に、ちょっとした長文級の意味をこめることができたりする。
 ほとんど魔術めいた力を持つので、悪用されると大変だ。「声」を持つものがその気になれば、まったく無意味な文章に、他人の人生を左右するほどの力を持たせることが可能となるし、相手が信じていない事柄をたやすく信じ込ませることだってできる。
その種の「声」を操る小説家は魔術師だ。
 悪い奴もいるし良い奴もいる。
 「声」の力を知って、好き放題に使うものは悪人だ。心ある小説家は、できるだけその「声」を使わないように心がける。力は必要な時だけ使えば良くて、振り回されるべきじゃない。
 本当は「声」なんてものはない方がいいのかもしれない。でもその「声」をどうにかすることができるのは、「声」だけだったりする。悪をなすことができる力に対抗できる力にはやっぱり、悪をなすことが可能だ。「声」の力は圧倒的だ。
そういうものだ。
ほらね。
(「訳者あとがき」P139~P140)
​ ​とまあ、こんな感じなのですが、で、ヴォネガットはどうだったの?と聞きたくなるわけで、​円城塔さん​の文章はもう少し続くのですが、略して、結論はこんな感じです。​
 ​ヴォネガットの、どこかはにかむような言葉や文章ははやはり、この「声」を使ってしまうことへの照れがあったのではないかと思う。​​
​ 「声」はにかむ文章って、なんだか気になりませんか。というわけで、ヴォネガットの実例を引用します。もっとも、ぼくは、どのあたりが「はにかむ」にあたるのかよくわかっていません。
 ​「卒業する女性たちへ(男性もみんな知っておくこと!)」​という1999年5月15日アグネス・スコット大学での講演ですが、終わりに差し掛かったあたりを引用してみます。
 君たちのほとんどは、教育だとか、医療の世界に出ていこうとしている。欲張りは興味を持たない分野だ。人を教えることは、民主主義体制においては最も高貴な専門商だ。
母親になる人もいるだろう。おすすめはしないが、よくあることだ。
 あまりにつらくなったときには、詩人のウィリアム・ロス・ウォーレスの言葉が慰めになるかもしれない。「ゆりかごを揺らす手が世界を支配する」。
 自分の子供を、親の財布から金を抜き取っていくようなさみしい子にしたくないなら、絶対にテレビとコンピューターから引き離しておくんだ。
 本を読むことをやめてはいけない。本はいいものだ。ちょうどいい感じの重さがある。指先でやさしくページをめくるときのためらい。わたしたちの脳の大部分は手が触れているものが自分にとっていいものなのか悪いものなのか見定めるために使われている。どんなちっちゃな脳でも、本はいいものだとわかるんだ。
 そしてインタネットに巣食う亡霊たちと家族になろうとしてはいけない。
 代わりに、ハーレーを買って、ヘルスエンジェルに入るんだ。
 卒業式のスピーチをするときはいつも、私の父の弟、ハーバード卒でインディアナポリスで保険代理人をしていたアレックス・ヴォネガットについての話で終わりにしてきた。よく本を読む、賢い人物だった。
 ところで、私がズピーチをした最初の卒業式は、ヴァーモント州のベニントンにある女子大だった。ベトナム戦争が進行中で、卒業生たちは化粧もしておらず、恥ずかしそうに、哀しそうにしていた。
 さて、叔父のアレックスは今天国にいる。彼が人類について発見した不快な点の一つは、自分が幸せであることに気づかないことだ。彼自身がというと、幸せな時にそれに気づくことができるように全力を尽くしていた。夏の日、私たちは林檎の樹の木陰でレモネードを飲んでいた。叔父のアレックスは会話を中断してこう訊いた。「これで駄目なら、どうしろって?」
 そう、君たちの残りの人生をそういう風に過ごしてもらいたい。物事がうまく、きちんと進んでいるときには、ちょっと立ち止まって見てほしい。そして、大声で行ってみるんだ。「これで駄目なら、どうしろって?」
 君たちのクラスのモットーを、「これで駄目なら、どうしろって?」にしてほしい。
 これが私からのお願いの一つだ。そしてもう一つはこうだ。卒業生だけじゃなく、ここにいる皆さんにお願いしたい。親御さんにも先生方にも。私が質問したら、手を挙げてほしい。
 君たちの写何人が、学校にいた間のいつでもいい、生きていく上の活力を、生きていく上の誇りを、それまで自分に可能だと思っていた以上のものを与えてくれる教師に出会ったことがある?
 手を挙げたままにしていて。
 下していい。その先生の名前を誰かに伝え、何を教わったかを伝えるんだ。
いいかい?
これで駄目なら、どうしろって?
​ ​​まあ、こんな感じですね。やっぱり「声」が響いている気がしますが、どこが、どう「声」であって、どのあたりが「はにかみ」に当たるのか、やっぱりわかりません。小説のときのヴォネガットとの矛盾も感じません。まあ、率直な気持ちを言うと、「カート・ヴォネガットっていい人なんだなあ。」という感じです。​​
 小説ではありません、たぶん図書館にはあるでしょう。気になった方は、どうぞお読みください。

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最終更新日  2021.09.18 01:10:49
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