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トミ・ウンゲラー「どうして、わたしはわたしなの?」(アトランさやか訳・現代書館) トミー・ウンゲラーという名前は「すてきな三にんぐみ」(偕成社)という絵本でご存知の方もいらっしゃると思います。フランスの絵本作家で、2019年、87歳で亡くなられた方です。
市民図書館の新刊の棚で「どうして、わたしはわたしなの?」(アトランさやか訳・現代書館)という、二羽のペンギンが向き合っている表紙に出会って手にとりました。 フランス哲学雑誌『フィロゾフィー・マガジン』の人気連載の書籍化だそうですが、もちろん大人向けの雑誌だと思います。その雑誌上で80歳を超えた老絵本作家が、まだ10歳になるかならないかの子どもたち相手に「人生相談」しているコーナーがあったようで、その記事の書籍化でした。 スゴイです。あれこれ言っても始まらないので、一つ例を引用します。 戦争に勝ったら何がもらえるの? どうでしょうか。ぼくは感心しました。質問しているのは7歳のエリック君です。小学校一年生になるかならないかの年齢です。答えているジーさんは、なんの遠慮もしていません。「わかりやすい病」が蔓延している、ニッポンの児童書では考えられない、堂々たる態度です。とにかく、そこのところに、感心しました。 もっとも、フランスでも、この記事が子供たちに受けたのかどうか、そこは定かではありません。しかし、大人が子供に対する態度として、歴史事実に基づき、自分の経験を正直に語り、意見を主張するという、オーソドックスな態度が、全く、崩されていません。子供相手という、舐めた態度や、年齢や理解力への「上から目線」の忖度、自分の立場に合わせたご都合主義など欠片もありません。 話題になっているアルザス地方の歴史は、ぼくたちの世代であれば、教科書に載っていた「最後の授業」というドーデ―の小説の舞台として思い浮かぶ方もあると思いますが、フランス語、ドイツ語、アルザス語をめぐるウンゲラー自身の経験から出てきた言葉が、現代の子供たちに語られる姿に驚かないわけにはいきません。 例えばの話ですが、朝鮮併合以来、1945年に至るまで、朝鮮半島での日本語政策について、小学校一年生くらいの子どもに、こんなふうに語ることができる「日本人」は果たしているでしょうか。 現代書館から出ているこの本も、子ども向けの装幀と挿絵で作られていますが、子どもたちが、このおじいさんといつ出会って、おじいさんの言っていることに興味を感じたり、わかったりするには時間が必要でしょうね。「生きる」という時間の経験の中で、出会い直す絵本とでもいえばいいでしょうか。 そう言えば、松本に住んでいる、まだ5歳のユナチャン姫にこの本を送ったのですが、サキチャンママから「文字には興味がるのですが、まだ、むずかしいようです。私が読んでいます。」 と返事がありました。期待通りのうれしい返事でした(笑) 追記2022・09・09 著者と訳者のプロフィールを追記します。 トミ・ウンゲラー Tomi Ungerer お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.09.10 00:10:37
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