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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.09.10
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​​​トミ・ウンゲラー「どうして、わたしはわたしなの?」(アトランさやか訳・現代書館)​​
​​ トミー・ウンゲラーという名前は「すてきな三にんぐみ」(偕成社)という絵本でご存知の方もいらっしゃると思います。フランスの絵本作家で、2019年87歳で亡くなられた方です。​​
​ 市民図書館の新刊の棚で「どうして、わたしはわたしなの?」(アトランさやか訳・現代書館)という、二羽のペンギンが向き合っている表紙に出会って手にとりました。​
 フランス哲学雑誌『フィロゾフィー・マガジン』の人気連載の書籍化だそうですが、もちろん大人向けの雑誌だと思います。その雑誌上で80歳を超えた老絵本作家が、まだ10歳になるかならないかの子どもたち相手に「人生相談」しているコーナーがあったようで、その記事の書籍化でした。
 スゴイです。あれこれ言っても始まらないので、一つ例を引用します。

戦争に勝ったら何がもらえるの?
エリック 7歳

 争いに勝つことはできても、戦争に勝つことはできない。戦争というものは、どちらの国にとっても、ひどい損失だ。ものが壊れるだけではなくて、いたましくも無実の命が奪われてしまう。
 戦争がおこると、勝ったほうはごうまんになり、負けたほうは復讐の念を抱くことになる。そして、終わったとたんに、すでに次の戦争が予告されている。「門出の歌」で誇らしげに謳いあげられている勝利だけど、現実はそんないいものじゃない。
 ドイツとフランスのあいだで動きが取れなくなっていたアルザスの人間として、ぼくは2度敗北を経験した。奇妙な戦争のあと、1940年にはドイツがアルザス地方を支配し、ぼくたちにフランス語を話すのを禁じた。そして、1945年にフランスはアルザスを取り戻し、それ以後ドイツ語やアルザス語で話すのを一切禁じたんだ。フランスの軍服をまとわされ、次はドイツ、そしてまたフランスと、強制的に兵役につかされたアルザス人の、なんと多かったこと!
 でも、ぼくたちは奇跡を体験したんだ。何世代にもわたって殺し合いをつづけてきたにもかかわらず、フランス人とドイツ人のあいだでほどすみやかに和解が訪れたことは、世界の歴史上なかった。その例は、ああ、なんとも残念なことに繰り返される気配はないけれど。これは、ひどい戦争を経験した2国の人たちが和解できた珍しいケースだ。

ぼくはといえば、憎しみを憎んでいる。(P14~15)​​
​ ​​どうでしょうか。ぼくは感心しました。質問しているのは7歳エリック君です。小学校一年生になるかならないかの年齢です。答えているジーさんは、なんの遠慮もしていません。「わかりやすい病」が蔓延している、ニッポンの児童書では考えられない、堂々たる態度です。とにかく、そこのところに、感心しました。​​​
​ もっとも、フランスでも、この記事が子供たちに受けたのかどうか、そこは定かではありません。しかし、大人が子供に対する態度として、歴史事実に基づき、自分の経験を正直に語り、意見を主張するという、オーソドックスな態度が、全く、崩されていません。子供相手という、舐めた態度や、年齢や理解力への「上から目線」の忖度、自分の立場に合わせたご都合主義など欠片もありません。​
​​ 話題になっているアルザス地方の歴史は、ぼくたちの世代であれば、教科書に載っていた「最後の授業」というドーデ―の小説の舞台として思い浮かぶ方もあると思いますが、フランス語、ドイツ語、アルザス語をめぐるウンゲラー自身の経験から出てきた言葉が、現代の子供たちに語られる姿に驚かないわけにはいきません。​​
​ 例えばの話ですが、朝鮮併合以来、1945年に至るまで、朝鮮半島での日本語政策について、小学校一年生くらいの子どもに、こんなふうに語ることができる「日本人」は果たしているでしょうか。​
 現代書館から出ているこの本も、子ども向けの装幀と挿絵で作られていますが、子どもたちが、このおじいさんといつ出会って、おじいさんの言っていることに興味を感じたり、わかったりするには時間が必要でしょうね。「生きる」という時間の経験の中で、出会い直す絵本とでもいえばいいでしょうか。
 そう言えば、松本に住んでいる、まだ5歳ユナチャン姫にこの本を送ったのですが、サキチャンママから「文字には興味がるのですが、まだ、むずかしいようです。私が読んでいます。」
と返事がありました。期待通りのうれしい返事でした(笑)

追記2022・09・09​​​​​

著者と訳者のプロフィールを追記します。
トミ・ウンゲラー Tomi Ungerer​  
 19311128 ストラスブール生まれ。絵本作家、グラフィック・デザイナー、イラストレーター、おもちゃ発明家、コレクター、広告デザイナー代表作に『すてきな三にんぐみ』(1961年、日本語版は偕成社より1969年刊)、『ゼラルダと人喰い鬼』(1967年、日本語版は評論社より1977年刊)、『キスなんてだいきらい』(1973年、日本語版は文化出版局より1974年刊)、『オットー 戦火をくぐったテディベア』(1999年、日本語版は評論社より2004年刊)などがある。
 1998年、「小さなノーベル賞」と称される国際アンデルセン賞画家賞。
 201929日、アイルランドで死去。

​アトランさやか Sayaka Atlan
 1976生まれ。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。2001年に渡仏、著書に『薔薇をめぐるパリの旅』(毎日新聞社)、『パリのアパルトマンから』(大和書房)、『ジョルジュ・サンド 愛の食卓:19世紀ロマン派作家の軌跡』(現代書館)、共著に『10人のパリジェンヌ』(毎日新聞社)がある。
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最終更新日  2022.09.10 00:10:37
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