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カテゴリ:映画「シネリーブル神戸」でお昼寝
ビクトル・エリセ「瞳をとじて」シネリーブル神戸今回の感想はビクトル・エリセの新作「瞳をとじて」です。神戸での初日は2024年、2月9日、金曜日でした。1月の半ばから「ミツバチのささやき」、「エル・スール」の2本を見て予習して、
さあ、いよいよ! というか、待ちに待ったというか、まあ、そういう気分で駆け付けました。 見終えて、2週間以上たちました。いろいろなことが浮かんでは消え、消えては浮かびする、ふしぎな2週間でした。感想が形になりません。まあ、そうはいっても忘れてしまいそうなので、とりあえず書いておきたいことを書いておこうということです。 書いておきたいことは二つです。 一つは、ちょうど50年前に作られた「ミツバチのささやき」で少女アナを演じていた、アナ・トレントという女優さんが、この映画では記憶を失ったフリオ・アレナスという男の娘アナとして出演していたのですが、彼女がその父親と再会し、顔を合わせたときに 「私はアナよ」 という、ミツバチのささやきのあの一言を、50年を隔ててささやくのですが、その娘の眼差しに、困惑の表情を浮かべる老人に、じっと見入った後、まさに瞳をとじるシーンがあります。 で、そのシーンに見入りながら、ボクの中に浮かんできたのは、ボク自身が、自分では気づかないまま暮らしているに違いない、膨大な失われた記憶についての、なんともいえないカラッポな感慨でした。瞳をとじても、 なんにも浮かんでこない「現在」 に座っている自分に対する、そこはかとない自覚といってもいいかもしれません。 ボクは、なにをして、今日まで生きてきたんだろう? そんなふうにいってもいいかもしれない、自問のような感慨です。 映画を見ているボクに、スクリーンで瞳をとじたアナ・トレントの脳裏に浮かんでいるかもしれない、記憶を失っている父、5歳だったあの時の自分自身、そして55年の自らの人生、それぞれに対する記憶の重なり合った映像を空想させる、エリセの映画術に対する感嘆もさることながら、見ているこちら側の「記憶」の空虚に対して 「あなたは何をして生きてきたのか?」 と、静かに問いかけてくる迫力に目を瞠りました。おそらく、長く映画が撮れなかったエリセ自身の中で、練りに練られてきたに違いないシーンなのだと思いましたが、 さすが、ビクトル・エリセ! と思わざるを得ないシーンでした。 二つ目は、ラスト・シーンです。かつて、ともに映画を作った二人の老人が、あの時の映画のラストシーンを、目を瞠るとはこのことだた言わんばかりに見つめていました。 瞬きもせず、スクリーンを注視し続けるふたりの姿を見ながら、ボクの中に浮かんできたのは 「生きるとは、こういうことだ!」 という、なんだかとてつもなく哀しい感慨でした。 このシーンの二人は 「あの時に帰ることはできないだろう」 という、だからこそ、激しく胸をうち、忘れられないシーンになるに違いないという、なんだか、確信めいたこの思いは、20代、30代の頃のボクは持つことができなかったに違いないし、こうして、今、この作品に出逢えたよろこびも、この年齢になった今だからこそなのだという、うれしいような、悲しいような気持ちで映画を見終えたシーンでした。 傑作ですね。80歳をこえて、生涯3本目ですかね、こんな長編映画を撮ることを忘れなかったビクトル・エリセに拍手!拍手!です。 作品の始まりからラストまで、あれこれ、 アイデアの宝庫 のような作品で、言ってみたいことは山のようにありますが、どうせ、半端にしか語れない聞いた風なことをいうのはやめます。どこかで映画の専門家たちが語ることでしょう。 みずから「瞳をとじて」みて、浮かんでくる思いと、世界の空虚に堪能しました(笑)。 監督・原案・脚本 ビクトル・エリセ 脚本 ビクトル・エリセ ミシェル・ガスタンビデ 撮影 バレンティン・アルバレス 美術 クルル・ガラバル 衣装 ヘレナ・サンチス 編集 アセン・マルチェナ 音楽 フェデリコ・フシド キャスト マノロ・ソロ(ミゲル・ガライ元映画監督) ホセ・コロナド(フリオ・アレナス/ガルデル失踪した俳優) アナ・トレント(アナ・アレナス アレナスの娘) ペトラ・マルティネス(シスター・コンスエロ) マリア・レオン(ベレン・グラナドス) マリオ・パルド(マックス・ロカ 映画編集者) エレナ・ミケル(マルタ・ソリアーノ) アントニオ・デチェント(ティコ・マジョラル) ホセ・マリア・ポウ(フェラン・ソレル ミスター・レヴィ) ソレダ・ビジャミル(ロラ・サン・ロマン) フアン・マルガージョ(ドクター・ベナビデス) ベネシア・フランスコ(チャオ・シュー) 2023年・169分・G・スペイン 原題「Cerrar los ojos」 2024・02・09・no018・シネリーブル神戸no222 追記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.02.25 23:42:45
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