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2005年10月30日
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テーマ:吐息(401)
カテゴリ:Essay

 夕べ、山葡萄をつぶしてジュースを作った。
 長女が塗ってくれたマニキュアの、肌との境目が葡萄色にそまった。
 今朝は無残にも、その葡萄色は茶色に変色をしていた。
 
 もう何年も、指先を染めるという行為からは遠ざかっていた。 
 女廃業宣言をしたわけでもないが、いつしかピタリとやめていた。
 そんなある日。
 「母さん。たまにはおしゃれして良い男でも見つけなよ」
 そう冗談を飛ばしながら、長女が爪をサーモンピンクに染めてくれた。
 「そうね。良い男みつけなきゃね」
 言葉を返しながら、少しもそんな気分になれない自分を発見した。

 わたしは実に惚れっぽい。
 だから、いつも頭の中には素敵だなーと思う男性が住んでいた。 
 ところが惚れっぽいけど、飽きっぽい。
 年中入れ替わり立ち替わる。
 
 長女が染めてくれた指先は、そこだけが妙に艶かしかった。
 そういえば、亡き母はものすごく美しい人なのに、死ぬまで化粧をしなかった。
 子育てに、生活に忙しい母には、自分を飾る時間も金もなかったのだ。
 指先なぞ、一度も染めたことはなかっただろう。
 きりりっと結い上げた髪型はずっと昭和の母の姿で、白い割烹着が良く似合っていた。
 そんな母に少しでも華やいでもらいたくて、わたしは母の顔に無理やり白粉を塗ったことがあった。
 日焼けした顔に白粉はなじまない。
 不自然で、少しもきれいに仕上がらなかった。
 母は若い頃、○○小町といわれていたらしい。
 と言っても物心ついた頃には、すでに日焼けした労働者の顔だったのだけれど。
 出来上がった顔を鏡で見るなり、母は慌てて顔を洗った。
 「チンドン屋みたい」とつぶやきながら。
 今更なじまない化粧は、母を美しくしなかった。

 指先を見て、亡き母のそのシーンを思った。
 母は、死ぬまで女には戻らなかった。
 ずっとずっと母親で、今もわたしの胸の中にいる。





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最終更新日  2005年10月30日 13時23分25秒
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