禁酒について
禁酒は難しい?村上和雄著 運命の暗号 よりなぜからだがボロボロでもお酒をやめられない人がいるのですか? 世のなかには、お酒に強い人、弱い人、全く飲めない人がいます。これはアセトアルデヒドを分解させる酵素の、遺伝子のタイプのちがいによります。このちがいにより、お酒に強いタイプ、弱いタイプ、まったく受け付けない下戸タイプの三つに分かれることが明らかになってきました。 アルコールは、胃や腸から吸収され、肝臓で酵素の働きによって、まずアセトアルデヒドに分解されます。その後、別の酵素によって無害な酢酸に分解されます。じつは、このアセトアルデヒドがくせ者で毒性が強く、悪酔い・二日酔いの原因となる物質です。 遺伝子タイプを見ていくと、日本人を含むモンゴロイド(黄色人種)は、アセトアルデヒドを分解するはたらきにちがいから、お酒に弱いタイプの割合が全体の半数弱を占めています。さらに、少数派ですが、まったくお酒が飲めないタイプもいることがわかってきました。これに対して、白人・黒人はほぼすべてが、お酒に強いタイプに属しています。 お酒の強いタイプには、アセトアルデヒドを分解するバイパスのようなしくみもはたらいています。アセトアルデヒドがどんどん分解されるので、より多くのお酒を飲むことができるのです。しかし、お酒に強いタイプはアルコール依存症になりやすく、弱いタイプに比べてじつに6倍も発症リスクが高いこと明らかになっています。 アルコール依存症になりやすい遺伝子タイプがあることもわかってきました。ワシントン大学のダニエル・ディック博士が、アルコール依存症のカギをにぎる遺伝子を特定したのです。これは、脳内で、常にアルコールをほしがったり、禁断症状を起こしたりする行動にかかわっている遺伝子です。要するに、アルコール依存症の素質は、遺伝的要因によっても決定されることが明らかになったということです。 アルコール依存症の治療がたいへんなのは、依存を断ち切るのがとても難しいからです。サルを使った実験で精神的依存度の高さを調べると、コーヒーや緑茶などの含まれるカフェインを1とすると、ニコチンは8~16なのに対し、アルコールは32~64もの数値を示したそうです。これは、麻薬の一種であるモルヒネとほぼ同等です。アルコール依存症から立ち直る難しさは、禁煙どころではないというのがおわかりいただけるでしょう。 依存症患者は常にアルコールに対する強い渇望を感じ、自分の意思で飲酒のコントロールができなくなるのです。このため、根本的な治療法といえるものは現在のところ、強制的な断酒しかありません。 日本人はお酒に弱く、アルコール依存症になりにくい遺伝子タイプが多いといいました。しかし、日本のアルコール依存症患者は400万人を超え、予備軍は1500万人にもなると推計されています。本来はお酒に弱いはずの日本人に、アルコール依存しよう患者がこれほどまでに増えた原因は、飲酒をめぐる環境の変化が大きいと考えられます。 現在、日本の飲酒人口は6000万人を超えています。厚生労働省は一日あたりの純アルコールで約20グラム程度を適正飲酒としています。飲酒量がそれ以上増えると、からだを壊したり、社会的・経済的なトラブルを引き起こしたりして、それによる苦痛から逃れようとまた飲酒を繰り返す悪循環に陥り、アルコール依存症になってしまうケースが多いそうです。こうしたこともあって、アルコール依存症に陥る人も増え、その予防と治療は大きな社会的課題になっているのです。 アルコール依存症になりやすい遺伝子タイプだからといって、最初からアルコール依存症であるわけではなく、また、必ず依存症にはならないからです。「飲める・飲めない」は遺伝子で決定されていても、「飲む・飲まない」は自分の意志で決められるということをかかっていただきたいと思います。依存症になりやすい遺伝子はありますが、飲む・飲まないは意思の問題です。禁酒など依存症からの開放のお手伝いします。幸せの催眠法坂田和彦