『モギ ちいさな焼きもの師』 リンダ・スー・パーク
舞台は12世紀後半の韓国の焼きもので有名なある小さな村。少年のモギは、トゥルミという血の繋がりはないおじいさんとずっと橋の下で一緒に暮らしてきた。食べ物をあさりながら生きているモギにとっての楽しみは、焼きもの師ミンがろくろを回しているのを陰からこっそり見ること。しかし、そんなある日、ミンがいなかった時に作品を見ようとした所、泥棒と間違われ作品を壊してしまった。その代償としてミンの家で働くことになる。連日の重労働に耐えながら、目標をもちながら働くモギ。ある時、王室の使いが御用達の焼き物師を探すということで村にやってくるという知らせ。そして、その後モギにとって大きな事が・・。 モギのひたむきさ、職人のこだわり、青磁器ができあがるまでの奥深く、丹念な工程やその芸術性など読みどころはたくさん。ミンの作り上げた青磁器の梅瓶をモギの目から見た表現に次のような文章があります。 “器の豊かな曲線と幽玄な緑。鋭く曲がった黒い枝に咲く白い花。人間のわざと大自然のわざ。土から生まれた器と、空をあおいでいた枝。それらがひとつにとけあって、見る者は雑念を払われ、身も心も安らかになる。” この梅瓶(めいびん)と梅の花は物語の後半でも一つのキーとなっています。 何よりも心打たれるのは登場人物のそれぞれの人柄、そして言葉でなく態度で表される尊厳や優しさ。 あとがきとして訳者の片岡しのぶさんがそれぞれの登場人物についてこう書いています。 “目標に向かってひたすら努力を続け、絶望の淵に立ってもなお希望を捨てないモギ。貧しいなかで人としての情けと誇りを忘れないトゥルミじいさん。青磁器作りひとすじに生きる頑固一徹なミン親方。あれこれ口は出さないけれど、あたたかく見守るやさしいおかみさん” それぞれの人物が自分の立場の中で、人の領域を侵さず、依存せず、しかし共に関わり合いながら生きていく。その距離感が厳しくもあり、とても心地よくありながら読み進めました。 この本は平成16年度の中学の課題図書に以前指定されでいます。上の登場人物の他にも王室の使者のキム氏、金品を奪う、おいはぎなども合わせ、それぞれの人物の生き方は中学生にとって考えさえたり、影響を与えることのできる良い本だと思います。