錆
日々感じた事を忘れないうちに書き留めておくコーナーです今までキッチンに錆取り用のスポンジは無かった。実家でもそう。フライパンも鍋も錆びちゃったら捨てていた。だから無かった。母が何の躊躇いも無く捨てていたように、私も捨ててしまえばいいと思っていた。子供が出来て結婚した私は、何かある度に離婚が頭を掠めていた。陣痛で苦しんでいた時も、退院する時も病院に来なかった主人。家では何もせず帰ってくるなりパソコンの電源を入れ、ネットゲームをする主人。夫婦の会話も無いくせに、やたらとセックスだけはしたがる。そんな主人が生理的に受け付けなくなってきていた。けれど、こんな事誰にも言えない。自分ひとりの胸の中に仕舞い込んで身体の中で限界まで膨れ上がってしまっていた。次第に気力も失われ、無表情な顔が鏡に映った時愕然とした。お昼ごはんの食器をキッチンに片付けに行くと錆び付いたシンクの周りや、ガスコンロ、フライパンや鍋の底が目に飛び込んできた。今まで気づかなかったのに……いや、気づかない振りをしていただけなのかも。その時がきっと許容量範囲を超えたのだろう。涙がぽろぽろこぼれ落ちた。キッチンでひとり泣いていると言葉を覚えたての息子がシャツの裾を引っ張りながら「あーしゃん、あーしゃん」と私を呼んだ。抱きしめて涙をきゅっと手で拭い去ると出かける事にした。家の中ばかり居るとろくな事を考えない。引き寄せられるように辿り着いたのはホームセンターだった。キッチン周りの清掃グッズを数点カゴに入れると錆び取りスポンジが目に止まった。それもカゴに放りこむ。家に帰って早速キッチンの掃除を始めた。スポンジをビニールの袋から取り出して錆び付いた部分を擦ってみる。初めての感触。水をかける度、錆が剥がれてキッチンが輝きを取り戻していく。面白くなってただひたすらにゴシゴシ擦った。気がついた時には錆びも油汚れも消え、入居した頃のようなキッチンに戻っていた。次は鍋。底や淵についた錆を剥がしていく。最後の鍋に水をかけると目の前にはピカピカ光る鍋の山が出来ていた。汚れは全て取り除けてはいない。新品に戻す事は無理な事だ。私は別に新品が欲しいのではない。再び輝き出したシンクや鍋達を見渡すととてつもなく愛しいと感じた。「捨てるのは勿体無い」そう呟いた。注)この文章はフィクション含んでいます■□■□■□■□ ついでに買っていって(笑) ■□■□■□■□