ストックホルムからの手紙 2005.12.25
クリスマスは1年に1度。元旦もそうだが、何でも1年に1度というのは寂しく、あっけない。それで我が家はクリスマスの後も、居間にツリーを飾ることにしている(1月下旬まで...)。 サンタクロースの存在は、とっくに息子に疑われているけれども、今年は10歳のクリスマスなので、何か記念になることをしたかった。 それで、ネットで「サンタクロース」と検索してみた。 そこで見つけたのは「サンタさんからのお手紙事務局」というサイト。これは世界中に事務局があって、スウェーデンから「サンタクロース」がお手紙を届けてくれる。 書かれてあるのは、スウェーデン語。それと並行して、英語に訳した内容が書かれてある。 これはネットから申し込むのだが、その際に、お手紙の本文は英語がいいか、日本語がいいか、選べるようになっている。私は英語で書かれてあるほうが、「サンタクロースからのお手紙」というリアリティが出て、いいんではないか?そう思って、英語で申し込んだ。 申込が済んだ後、代金1360円ほどを、「事務局」宛に振り込む。このお金は、ユニセフなどに寄贈されるそうである。 なかなかいいアイディアであるし、「サンタさん」は実在しないけれども、もとを辿れば、世界中の恵まれない子供たちに、夢と希望を与えるシンボルとして今も存在するのだ。本当にこの「サンタさんのお手紙」というのは、素晴らしい事業だと思う。 さて24日に、「JAPAN」と書かれて、遠いスウェーデンの町、ストックホルムの切手に消印の押された手紙が届いた。これがスウェーデンから届いた封筒ですストックホルムの消印済みの切手 私はそれを、クリスマスプレゼントを入れた袋の中に、そーっと入れて置いた。でも私が「こういうお手紙が来ているよ」と言わない限り、息子は気がつかないだろうな...そう思いながら。 果たして息子の反応やいかに?である。(ドキドキ) 肝心の25日の朝、私はお昼過ぎに目を覚ました。昨夜、遅くまで子供宛のクリスマス・カードを書いて、更に封筒にチラシなどから切り抜いた、ツリーやケーキなどの写真を貼って、「手作りのカード」を作成していた。 またプレゼントも家にあった、クリスマス用の包装紙で包み、「Merry Christmas!」や「Special Present for You」などのシールを貼るなどの、凝った飾り付けをしていたからなんである。 当然、肩も「こった」わけである。 息子は、パジャマを布団の上に脱ぎ捨てていた。枕元に置いたプレゼントは、既に開けられていて、袋の中は空っぽ。 リビングに行くと、彼はプレゼントのゲーム「ポケモン・ダークルギア」でもう夢中である。プレゼントも大事だが、私は手紙も読んでほしい。手紙はどうなったかな...やっぱり開封されてはいない。 「ほら、ママのクリスマス・カード。メッセージも書いたから、読んで」 去年とデザインは違うが、雪原にある小さな煙突のある家の窓が、ボタンを押せば、5箇所もきらきらと光りながら、「ジングルベル」を鳴らす、というカードである。それには息子は、興味をだいぶそそられた様子。 私はカードを裏返して、私のメッセージを読んでもらった。それから、封筒の裏にも書いたメッセージを見せた。それらを息子はちょっと黙って、丁寧に読んだ後、こう言った。 「うん、わかった。読んだよ。ありがとう」 ...そう言うと、あとはゲームの所にダッシュしそうになったので、私は手に持っていた「サンタさんのお手紙」を見せた。 「待って、待って。わざわざ遠いスウェーデンから、サンタクロースのお手紙が届いているんだよ。ほらね、ちゃんと切手も貼ってあるでしょ」 息子は驚いたようだった。 「何でそんなのが来てるの?」 「ママがね、日本にある『サンタさんからのお手紙事務局』に頼んだの。そこにね、スウェーデンから来たサンタクロースのお手紙がたくさん届くわけね。それを、事務局の人が、うちに届けてくれるのよ」 「へぇ~......」 私は息子の関心を逃すまいと、中にある手紙を見せた。 最初は見たこともないスウェーデン語で、その下に英語が書かれてある。それを見た息子は、「はぁ?こんなん、分かるわけないし」と言った。 「ママが読んで、説明してあげるから」 英文は、こう書いてあった。 Dear My Friend, Ow ow ow, my beard got stuck..."puff"...don't worry. I already fixed it. Like every year, this year i'll use my favorite red suit. The one, which turns redder when the children of the world are smiling. Let's everybody become friends, show their big smiles and make my red suit a big red shiny beacon. Morris and Cloris, two of my reindeers, are very excited because they love Christmas and like every year they are looking forward to meet all of our best friends. For next year, I promise we well meet again and for this Christmas you have all my blessings. A Merry Christmas!サンタクロースのサイン 実はこの英文の冒頭の"Dear" の後には、息子の名前が入っている。さて、「わけ分からんし」と言う息子に、私は1行ずつ、英語を読みながら、日本語で説明していった。 やあ、こんにちは。 おやおや痛いったら。おひげがくっついてしまってね... まるで「シュークリーム」だよ... でも心配はいらないよ。おひげはとれたりしないからね。 毎年のように、今年も、おじさんはお気に入りの赤い服を着るよ。 世界中の子供たちがほほえんでくれると、 おじさんの赤い服は、よけいにまっかになっちゃうんだ。 みんな、お友だちになろうよ。うんとにこにこしようね。 みんなの笑顔をみたら、おじさんの赤い服は、大きな赤い 灯台みたいになっちゃうんだよ。 おじさんが連れてる2頭のトナカイは、 モリスとクローリスという名前なんだよ。 この子たち、今からすごくワクワクしてるんだ。 なぜって、この子たちもクリスマスが大好きだし、 毎年、世界中のすてきなお友だちに会えるのを楽しみにしてるからだよ。 来年も、必ず会おうね。 今年のクリスマスも、おじさんからお祝いをおくるよ。 メリークリスマス! ところが、「2頭のトナカイの名前はモリスとクローリス」の辺りで、急に息子は慌てだした。プレゼントにもらった、ゲームのメモリーカードがないない、と言い出したのである。 私が「続きがまだあるよ~」と言っても、息子はパニクっている。 そこで、「はあ......まあ、あまり興味持ってもらおうって、期待しすぎないほうが良かったかも」と諦めた。一応、「サンタクロースのサイン」まで見せたのだが、相変わらず、「メモリーカードは?あれ?ないない!」と焦りまくっている。 後で、メモリーカードは見つかったらしいが、その手紙は、もう息子は手に取ろうともしなかった。それも仕方がない。とにかく、夏休みから待ち焦がれていた「ダークルギア」が届いたのだから、そちらに夢中なわけだ。 でも、夕食の時に、子供の顔を見ると、何となく寂しい気持ちになった。 「子が思う 心に勝る親心」とか、「親の心 子知らず」などという格言を思い出す。親と子供は別の人間なので、あまり相手に「喜んでもらおう」と期待し過ぎるのは、かえって期待外れとなりかねない。それでも親バカな私は、子供に喜んでもらいたかったので、ぼそっと呟いた。 「サンタクロースのお手紙って、あまり嬉しくなかったかな...」 すると、息子はびっくりして、こう言った。 「えっ!嬉しかったよ?喜んでたよ?」 「でも途中でゲームの方に走って行っちゃったしさぁ...」 何となくしょげた面持ちの私を見ていた息子は、食事が終わると、ゲームをせずに、いきなりこう言った。 「ねえ、何か硬い紙、ない?」 「段ボールならあるけど...何にするの」 「いいから、いいから」 それから、もう寝る用意をしている私の側で、せっせ、せっせと何かを書いたり、切ったり、貼り付けたりしていた。 私が「もう寝ようよ」と言うと、「できた!はい、これ」と言って、私に作っていたものを息子は渡した。手にとって、見ている私に「ちょっと算数の残りしてくるね」とリビングに走っていった。 息子は私宛のクリスマスカードを作っていた。 表に幼い字で、メッセージが書いてある。 「これはママのクリスマスカードだよ。ママ クリスマスおめでとう。ぼくへのカードありがとう。ママ長生きしてね。これからも仲よく暮らそうね。ぼくががんばって作ったよ。ここひらいて」 中を開くと、緑色に黄色の星を貼り付けた、折り紙で作ったクリスマスツリーがパッと立ち上がった。ポップアップカードである。 ツリーの周りにはボールペンで、雪や、雪の結晶が舞い落ちる様子が描かれてある。ツリーの上空には、小さく、トナカイにそりを引かせたサンタクロースが描かれている。小さく描くと、遠い上空を本当に飛んでいるように見える。 私は、とても感激した。 さっきから頑張って作っていたのはこれだったのか...... これは私が、息子から受け取った、初めてのクリスマスカードだった。 私が深い想いをこめて、せっせと息子に準備していたプレゼントと同じように、息子も私に深い想いをこめて、プレゼントを贈ってくれた。 一見、親の期待外れに見えても、子供の親に対する想いはいつまでも変わらず、深く、真剣なのだということを教えられた。息子のおかげで、今年のクリスマスはとても素晴らしいものになったのだった。