りんごは赤じゃない
山本美芽著・新潮社 副題に「正しいプライドの育て方」とあります。 神奈川県相模原市の中学校で美術を教えていた、太田恵美子氏を取材しています。この先生の授業というのがすごい。 まず、生徒の態度。おしゃべり、わいわいせず、真剣。 授業の内容。まず中学1年の初めの授業で、草をかかせる。それが隣の友達と同じように書いていることにきがつかせたうえで、外に出て実際の草を観察してかかせる。雑草の一本、一本が違うことに生徒たちは気がつく。先生は「草とお話してみて」といって、その話した内容をかかせる。この授業で、生徒のもっていた先入観をぶちこわし、注意深くものを見る姿勢を教える。 授業がすすんでいくとりんごのレプリカをつくらせる。りんごの色が単純に赤ではないことに気が付く。(これが本のタイトルですね) そういったことの積み重ねで、生徒たちは色を単純にベターっと塗るのではなく、豊富な色を混ぜて、重ねて、観察した色、自分の心の色を完成させるという、色づかいをまなんでいく。 もうこの時点で、フツウに美術をならった生徒たちとは、かくえが断然違ってきます。太田先生は、どんどん絵を学校に飾り、コンクールにも出品して(当然賞をとります)生徒たちに自信をつけさせていきます。 そこからまた授業は発展。美術であるのに、「調査研究」がはじまります。環境について、自分の進路について、本を読んだり人に取材したり、各自のもつスケッチブックにドンドン調べたことをかかせていく。最初、調査研究なんて、やり方も知らなかった生徒たちが、面白さにハマってどんどん自発的にすすめていきます。 その陰には、その子なりの努力をどんどん認め、ほめてやるという太田先生ならではのフォローがあります。一文字かくのでも園子にとって成長であれば、ほめ、励ます。ほめられ慣れていない生徒たちも、自分だけでなくだれもがほめられるので、素直にそれを喜びにしていきます。先生は教室に花をかざり、必ず生徒を教室の入り口で迎えていたといいます。生徒たちはそうして、自分が尊重されていることを実感していきます。 こうして、太田先生の授業は、美術をとおして子どもたちに自尊心を身に着けさせ、世の中のことに興味をもち、さらには自分がどんな人になりたいか(これは、卒業のときの「地球のためによいことをした人調べ」につながります)考えるーということを実行していたのです。 どの子も頑張ればできる。そのためにはどの子も大切にする。そうした信念は、太田先生自身の経験から生まれたようです。美術を大学で学びながら結婚して家庭にはいり、そこで夫と従属関係をむすんでしまう。太田先生の献身にたいして、当然のように振る舞い、尊重されない生活。ついに先生は二人の子とともに家出し、離婚。生計をたてていくために36歳にして先生になったという、フツウの教師とは違う道のりを歩いてきているのです。 先生の授業は当然、同僚教師たちからは煙たがられていたようですが、その成果は一人一人の子どもたちの中に、ちゃんと根を下ろしているでしょう。 こうした興味のあることを自発的に調べる力、先入観なく物事を見る目は、一生涯役立つ能力になってるに違いないなあ、と思います。 こんな先生がいたらいいな、(と、本の帯にもかいていますが)とうらやましがるだけでなく、大人たちが先生に学べることって、たくさんあるのでは。そうした大人が増えれば、こどもたちも変わっていく、そんな気がします。