近藤史恵さん「猿若町捕物帳シリーズ」
近藤史恵さんの「猿若町捕物帳シリーズ」を読了。『巴之丞鹿の子』と『ほおずき地獄』(ともに幻冬舎文庫)は長編で、『にわか大根』(光文社)は短編連作となっています。主人公の南町奉行所同心・玉島千蔭はいい男ながら堅物で不器用もの。常に仏頂面で眉の間のシワに札がさせるような顔ばかり。けれど誰に対しても丁寧でよほどでなければ声を荒げたこともないし、推理力もなかなか。隠居をした父親千次郎は芝居や常磐津を好み、酒好きで顔付き以外は正反対。嫌いなものは酒と遊女と祭りという江戸の男とは思えない(笑)千蔭ですが、ある事件をきっかけに、人気女形や座付き作家、吉原の遊女と縁が出来ます。いいように振り回されながらもヒントを掴み、事件の隠された裏を暴いていきます。『巴之丞鹿の子』人気女形・水木巴之丞が舞台で使う鼠色の帯揚げを模したものが江戸の娘たちに売れていた。そんな中、その帯揚げで娘が首を絞められて殺される事件が連続する。偶然なのかそれとも巴之丞が関わりがあるのか、千蔭が探るお話です。『ほおずき地獄』堅物の千蔭に縁談が持ち上がったのだが、相手の娘は「堅物の男なんかいやだ」と云ってくる。仕方なく千蔭は吉原へ繰り出し自分の評判を落とそうとする。もちろん遊女相手に茶を飲んでいるだけ(笑)ところが、その茶屋で幽霊騒ぎが立て続けに起き、しかもそこの主人夫婦が惨殺された。犯人とともに幽霊の正体を暴くお話。『にわか大根』「吉原雀」吉原で立て続けに遊女が3人死んだ。別の店、別の死因だったがよくよく聞き出すと数日まえから同じ症状があったこと、そして3人ともに雀を好んでいたことが判り・・・。「にわか大根」上方巡業から戻った人気役者・村山達之助の芝居がとんでもなく下手になった理由とは?「片陰」まじめで面倒見がよく、人に恨まされることもない船芝居の役者はどんな理由で殺されなくてはならなかったのか?幻冬舎文庫の『巴之丞鹿の子』と『ほおずき地獄』はもしかしたら廃刊かもしれません。けれどこれを読まなくては『にわか大根』も面白みが足らなくなってしまいます。気になる方は古書店か図書館で探してみてください。