スル・シタ族とサレル・サレタ族
あるところにスル・シタ族とサレル・サレタ族がおりました。もともと同じ部族なのですが、サレタ族はよく、「シタ族に~された」と訴え、シタ族はよく、「~したけど、サレタ族に対してしたつもりはない」と反論します。たとえて言えばこんなことです。シタ族のためにサレタ族が用意しておいた食べ物を、シタ族が食べなかったために無駄にしてしまった。サレタ族は「好意を踏みにじられた」と怒り、シタ族は「お腹が空いていなかったから食べなかっただけだ」と言います。そんな諍いがよく怒るので、長老が見かねてシタ族に問いかけます。「サレタ族にしてもらったことは何かないか?」シタ族は考えて、「食事を作ってもらいました」と答えます。「何かしてもらったらなんと言う?」と長老はまた尋ねます。「ありがとう、と言います」と、シタ族は答えました。「ではそれを言いなさい」次に長老はサレタ族に問いかけます。「今、シタ族は何をしたか?」サレタ族は少し考えたあと、「お礼を言ってくれました」と答えました。「それでいいか?」と長老に再び尋ねられ、サレタ族は「少し気分がよくなりました」と言いました。「人は神ではないから、なんの見返りもなく何かをすることは実は難しい。何かしてほしい、と思うのは決して浅ましいことではない。ここにいる人間はどちらも、元はモラウ・モラッタ族であり、同時にクレル・クレタ族である。ただ多くを求めず、それを知りなさい」そう言って長老が去って行ったあと、二つの部族は、お互いをシタ族、サレタ族と呼ぶのをやめました。