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カテゴリ:タコ サラリーマン期
「タコ、悪いんだけど20万円貸してくれない?」
六本木交差点近くにあったバーニーインでステーキを食べているときに、まともに見たらおこられそうな名前のミルナが切りだした。 「フィリピンにいる父親が病気でね、末の妹も学校に行かないとならないので、私が仕送りしているんだけど、なかなか生活も楽じゃなくてね。」 彼女は私が初めてであったフィリピン人だった。 当時、会社の金を湯水のように使いまくって飲みに行っていた。今はなきクラブ「マキシム」は、北京飯店のすぐそばにあった。入口は見過ごしてしまうほど小さいく、赤く豪華な絨毯の階段を地下に降りていく。入るとすぐ左側に男女兼用のトイレがあり、そこを進むと下界とは別世界が開けてくる。各種高級香水や酒やおつまみ、そしてトイレなどが織りなす饐えた匂いが妖しく漂っている。 ミルナは、ここの歌手で小柄で華奢な体からは想像もできないほどのボリューム感豊かな声で、「ニューヨーク、ニューヨーク」などを歌い、我々サラリーマンを魅了する。私は、何度か外で食事をしたことがあった。 「20万ね、おれも安月給のサラリーマンだから。」 そう言いながら、何だこれ彼女たちの常套句じゃないか、と疑った。しかし、疑いながらもずるずると引き込まれてしまう。次に会ったときに用立ててしまった。 「ありがとう、必ず3カ月以内に必ず返すから。」 ミルナは、大きな黒い瞳でチャーミングに笑いながら、背中を丸めて顔を皿につけるようにして、細切れにしたステーキを口に入れた。 30歳にもなって、なんでこんな子ども染みた芝居に自ら引っかかるのだろう。座るだけで2万円も取られるクラブに通っているのは自分の力じゃなく会社の力。なのに、こんなことで見栄を張ってどうするのだろう。 ミルナは、この一件があってから3カ月になる前に突然クラブを辞めてどこかへ行ってしまった。恐らく、多くの人にお金を借りていたのだろう。30年前の20万円は当然返ってこなかった。彼女が悪意のある「練炭毒婦」だったりしたとしても、私はいとも簡単に騙されて新聞沙汰になっていたことだろう。隙だらけの人生。 「男をその気にさせるなんてことは、本当は簡単な事なのよ。」 以前、お付き合いさせていただいていた金髪女性がある時そう静かに言った。ちょっとだけ、背筋が凍りついたように感じた。 あれから30年、基本的には自分はあまり変わっていないような気がする。変わったことがあったとするなら、それは、今私はあのミルナの生まれ故郷フィリピンで仕事をしていることだろうか。 毎回、果敢にこの緑の箱をクリックよろしくお願いいたします。 タコ社長の本業・オーストラリア留学 タコのツイッター Twitterブログパーツ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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