景色
午後の横浜ベイは、ブルーベルベットの反射で、高台の公園から、ふたり眺めて、夜のくるのを待っている、東の空に下弦の月が戸惑うように。「どこかで、かくれようか」 白いコートの女は、微かな5番の誘惑で。「すこし、寒いね」「話をそらさないで」 男は女の顔を見て、真意を探る。「海をみたいといったのは、あなたよ」「今夜、この夜景をみるのか」 しらふな恋の行方は、契りを求めている。「男と女は、そういうものなのよ」 女は海を見ている。なにを忘れ、なにを思い出すのか。「ありきたりな恋にしたくない」「そう、度胸ないのね、溺れるのがこわいんでしょ」「二階にあげて、階段はずすのか」 痩せた猫が、公園をゆっくりと横切る。「男と女は、そういうものなのか」「あなたは、子供なのよ」「それは、ほめ言葉なのかな」「わたしが、ほしくないの」 おだやかな西日の逆行線の中で、男が追い詰められていく。「なんで、だまっているの」「きみが、ほしい」「じゃ、あなたのものにして」「きみは、ものじゃない」「子供ね、そういうとこ、嫌いじゃないわ」 男は、両手の汗ばみを感じていた、その冬のグレイブルーの景色の中で。 やがて、そのときは来て、ふたりもとの生活のドアをあける。 その風景は、どんな景色にみえるというのか。