ダンディなGさん・・・・・
羽田空港で偶然,Gさんを見掛けた。Gさんは僕が以前勤めていた会社の上司だった方である。髪は真っ白になり、すっかり歳をとってしまったけれども、搭乗手続をしているGさんのダンディな振る舞いは、今も尚、健在だった。----------------------------------みんなが憧れていた。女性社員は当然ながら男性社員も同様に憧れていた。背が高くて物静かで颯爽としていた。長い足を組む姿が映画スターのようだった。そんなある日、長野の山奥に一緒に出張に行くことになった。多忙な時期で人手が足りなくGさんとふたりで現場に向かった。強烈な田舎だった。人家が途絶えてから更に40分車で走った。車一台通れる路を突き進み、着いた現場は今にも朽ちそうなブロック造りの事務所だった。しようがないな。まぁ早いところ済まそう。Gさんは柔らかな微笑みを浮かべながら僕に指示を出した。僕は必死に作業した。これまでの自分が嘘のように集中した。憧れのGさんと一緒だ。おのずと気合いが入るのだ。かれこれ5時間経過した頃、僕はお腹具合が怪しくなってトイレを借りた。トイレは旧式のボットン便所、おまけに紙がなかったのだ。幸いにして僕は以前貰ったアコムのポケットティッシュを持っていた。ホッと胸を撫で下ろしその場を処理した。作業場へ戻り、Gさんトイレに紙ありませんでしたよっと伝えたかったのだが、Gさんはどんなときも華麗で颯爽としているのだ。素早い身のこなしで立ち上がり、大股で向かうその先はトイレだ。僕のことばはそのままGさんの背中に届かずに消えた。問題ないさ。きっとGさんもティッシュを持っているのだろう。そう確信していた。10分位してGさんは戻ってきた。いつものようにダンディだ。優雅にパイプイスを手元に引き寄せ座った。「Gさん、紙はありまし・・・・」ここまで言いかけて僕は目を見張った。Gさんの華麗に組んだ足の先には靴下がないのだ!それも片方だけ。僕は見てはいけないものを見てしまった気がした。なんとなく押し黙る僕に、Gさんは気を遣ってくれた。「どうした元気ないぞ。具合でも悪いのか」「いや大丈夫です」見ないようにしても必要以上に裸足の片方が気になった。会社に戻ってからは以前ほどGさんの輝きは薄れたような気がする。相変わらず女性社員はGさんの一挙一動に目を奪われていたようだが。優しくて頼もしいGさん。憧れは変わらない。ただ特別な人だと思っていたのが普通の人だった。それだけだ。----------------------------------空港で見掛けたGさんに挨拶しようかどうか迷ったが結局止めた。思い切って声を掛けたほうが良かったかな。「あのときの靴下はどうされたのですか?」と。。。