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カテゴリ:母
戦時中だった。父は、出征中だ。
母は疎開先の家から、夫の実家に、生まれたばかりの 5番目の子(私の弟)を見せに行こうと思い立った。 赤ちゃんをおんぶして、お弁当を持って汽車に乗った。 下車してからは、山越えの道を、必死でとぼとぼ歩いた。 母はまだ若く、31才くらいだっただろう。 やっと、峠のところまで来て、ぽつんと立っている一軒の家を みつけて、縁側で、お弁当を食べさせてもらおうと思ったそうだ。 おじいさんが出てきて、どうぞどうぞと快く、承知してくれたので、 あかちゃんを下ろして、おにぎりを食べたとおもいねえ。 すると、お爺さんが、 コップに何やらジュースを持ってきてくれたのだ、 喉が渇いていた母は、ごくごくっと飲んで「おいしいっ!!」と 叫んだ。赤いいちごジュースだったのだ。 すると、お爺さんは、にこにこして、今度は、 オレンジジュースを持ってきてくれた。たちまちごくごくっと のんで、「おいしいっ!!」と叫んだ。そしたら、また、 お爺さんは、 ぶどうジュースだったか、パイナップルジュースだったかをもってきてくれた。 そこで、やっと、母は、ひとごこち着いて、何故こんな戦時中の、 何にもない時代に、こんな山の中に、おいしい飲んだことも ないようなジュースがあるのかと聞いたのだ。 すると、おじいさんが言うには、たった一人の息子が、 陸軍にいて、時々、物資を持ってきてくれるんだそうだ。 それにしても、お爺さんも気前がよかったねえ。 母は、うれしかっただろう!あの時代。 お爺さんは、そろそろ、荷車が通るのを知っていたから、 母を待たせて、それに乗せてくれたので、夫の村に楽に行くことが できたという。重い赤ちゃんをおんぶして山越えしたら、 どんなに大変だったか知れないのに、そんなことより、 おいしいジュースが、もっと、もっと、うれしかったんだそうです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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