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カテゴリ:母
お婆ちゃんの家の裏に大きな倉があった。私達が疎開したころは、
中は空っぽで、誰かが嫁入りに持ってきた黒塗りの長持ちが 一つ二つころがっていただけだ。 ある日、私が何かやっちまったらしい。母は怒って、 小さな私を倉に閉じこめた。しかし、重たい鉄の扉に 10センチほどの隙間を作っておくことも忘れなかった。 ぴったりと閉めるには忍びなかった母だった。 ところが、そこは、子供達のかっこうの遊び場だったから 小さなわたしでも、ぐいとがんばれば、思い扉を開けることも できたのだ。しかし、一人で開けて逃げることはいけないと 自覚していたので、「おか~~ちゃ~~ん、あ~~け~~~て~~」 と、大声で泣いた。母の兄が声を聞きつけて来て、 「おおおお、怖いおかあさんよのぅワシがおかあちゃんに言ってやるから」 と、言って解放してくれた。 その倉は、戦後進駐軍に接収されて、米軍の物資で満杯になった。 守衛のアメリカ人がいつも銃を持って立っていたそうだ。 3年くらいして、お婆ちゃんは、家を息子に譲った。 あの倉を売って当座の資金を作り、孫のいる東京で余生を過ごした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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