家の大黒柱を失って、お婆ちゃんは必死で働いていたから
私の母は、子供の頃、子供用の絵本とか、おもちゃなどは
与えられなかった。だから、かたっぱしから兄の本や、大人の本を
読みあさった。そのころ流行の文学は片っ端から読んだ。
ちょっと成長してからの愛読書は中央公論。新聞を隅から隅まで
読んでいた。兄の友人が集まると、口角泡を飛ばす激論になったが
いつも、母もその中にあって、誰にも負けない論客だったそうだ。
母は、大学に行きたかった。
でも、お婆ちゃんは、とても母をたよりにしていた。
家中で、たよりになるのは、母だけだったのだ。
だから行けなかった。
母の無念を知ったのは、私が相当のおばさんになってからだ。
母の気持ちをもうちょっと早く、学生時代にでも知っていたら、
もう少し、ましな人間になったかもしれない。
親の心子知らずだ。
いやいや、いやいや、やはりこんなもんなんだろう。
人間の生くる道は、わからないものですよね。
私は、母に学問を与えてあげたかったと思う。
母は、結婚以来、一度も本を読んだことがなかった。
捨てていたんだと思う。私は見たことがない。
ある日、短歌の勉強会の30名くらいが
どうしても思い出せない短歌があって、みんなが困っていたそうだ。
ところが、お茶出しのお手伝いに来ていた母には、
すぐに分かって、こそっと、教えたと言っていました。
それなのに、私は、ろくろく本を読んでいなくて、
申し訳ない娘です。