私の生まれる以前の話だが、
両親は、戦前
しばらく日本橋の蛎殻町に住んでいたことがあった。
母は
日本橋の三越百貨店に買い物に行った際には
「階段に座って、パイプオルガンの音色を楽しんだのよ~」と
夢みるような口調で、私に言った事がある。
あれは母、20代の頃だったのかしら。
田舎育ちの娘だった母は
大東京に出て
三越の大きなパイプオルガンに出会い、
文化の香りが、うれしく、どんなあこがれを抱いただろう。
若かった母の、幸せに満ち、うっとりした表情を夢想する。
実は、
今朝
ニュースを見ていたら
不況が続いて
大きな老舗の百貨店も消えて行く時代になった。
と言い、
続けて
三越本店の玄関前にあった象徴的な一対のライオン像が、
どこかの神社に売られて行ったのを知る人は少ない、
と聞こえた。
ええっ!
母の思い出が、そろりと少し消えて行くような気がした。
「お母さん、 さみしくなりました」