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ロドリゲスとらのこども・超克編

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2007.06.10
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カテゴリ:忙中閑あり
「話すこと」と、「書くこと」はどう違うか?

 学生時代、一部の学生の間で教祖的な人気を博していた評論家に吉本隆明がいた。ほんとうは「たかあき」と読むのだが、みんな「りゅうめい」と呼んでいた。若い世代には吉本ばななの父親というほうが通じがいいだろう。

吉本の人気の秘密は、論敵を論破するときの歯切れよさ、小気味よさにあったのだが、一度だけ講演を聴いて意外に思った。話はあまり上手ではなく、むしろ口下手な印象だった。「民衆」と「知識人」という二分法は、今日すっかり境界がぼやけてしまった感があるが、当時はまだ実感をもって受け止められていた。

吉本は、その違いを次のように説明していた。「民衆は話す。しかし書くことはしない」と。

人間は書くことをはじめるよりずっと古くから話すことを始めた。

話すことは生活に密着し、喜怒哀楽を伝え合うことで人と人をつないだり、切り離したりしてきた。しかし、書くことは、生活から一定の距離を置き、喜怒哀楽を排除するところに成立する。話す人は生活に密着していないことは話さない。

しかし、書く人はあらゆることについて書きたがる。話す人にとって、書く人は別世界の人間であった。それが自分たちの世界に現われて「書くように話す」ときには、うっとうしい存在であった。

同じころ学生に人気のあった「つげ義春」の漫画に、いろいろなことに興味を示し質問したり感想を述べたりする都会の若者にうんざりした宿の主人が、「あんたはよくしゃべるねえ」といって、ごろんと寝てしまう場面があったのを覚えている。この場合、「しゃべる」とは、「書くように話す」ということであろう。

知ったところで、どうにもならないことに興味を示す人種に、宿の主人はつきあいきれなかったのである。(注:議論好きな人は、この類型に近いのではないか。)

明治時代に「言文一致」の運動があった。「言文一致」というと、「話すように書く」ことであり、その結果なくなったのは古い書き言葉としての文語だと普通は考えられている。

しかし、「言文一致」の実態は、書き言葉が基準とされた東京の山の手の中流の人の話し言葉に似せて姿を変え、こうして出来た新しい書き言葉のとおりに話すことを多くの人が強いられたということであった。

その結果消えたのは、地域や階層により極めて多様であった話し言葉のほうだったのである。

しかし、映像と音響が誰にでも手軽に利用できるようになった今日、状況にはいささかの違いが生じている。若者は、字ばかりの本よりは漫画を選ぶ。漫画をそのまま小説にしたような小説も多い。

ネットの中では、ケータイ感覚の掲示板にいくらでも出会うことができる。このような状況が、書き言葉に新風を吹き込むことになる面も多いとは思うが、やはり、話すことと書くことは別のことなのだから、若者たちには、書き言葉の勉強もきちんとしてほしいと思っている。

以上、「ことばの散歩道」より転載。(注: )は、とらのこどもの追記である。
http://homepage1.nifty.com/forty-sixer/kotoba.htm





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最終更新日  2007.06.10 18:38:42
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