アル中予備軍(後篇)
アル中予備軍(後篇) ここで芥川龍之介の短編小説「酒虫(しゅちゅう)」の登場である。 奇妙な味の小説である。 もともとは中国の『聊齋志異』にあった話しだが、それを芥川が翻案したものだという。インターネット上にも掲載されているので、興味のある方は検索されると良い。しかし、それでは不親切なのであらすじを述べる。 古い中国での話しである。大地主で大金持ちの劉は15歳の時から60歳になるまでの45年間、毎日5升入りの大甕を飲みほしていた。大酒飲みだが酔うことのない酒豪である。 劉は、その噂を聞いて訪ねてきたインド僧の治療を受けることになった。 焼けつくような暑い日、劉は縛られ、顔の先には素焼きの甕が置かれている。甕の中には上等な酒が入れられ、酒の匂いがプンプンと漂ってくるのである。 劉は喉がカラカラに乾いて酒が飲みたくなってきたが、縛られているため動けない。 劉は激しいめまいに我慢できなくなり、大声で助けてくれと叫ぼうと口を開けた途端、喉の奥からドジョウのような虫が勢いよく飛び出した。 その途端、甕の中の酒がポチャリと音を立てた。 恐る恐る酒壺の中をのぞき込むと、中には3寸ほどの肉の塊が山椒魚のように泳いでいた。 劉の体内に住んでいた酒虫が甕の中の酒を旨そうに飲んでいたのである。 その後、劉は酒を見るのも嫌いになった。だが、劉は次第に痩せ衰えるようになり、併せて家業も落ち目となった。 はたして、<1>酒虫は本当に劉の病気の元だったのか。<2>それとも、実は、酒虫は福の神だったのではないか。<3>酒虫は劉の人生そのものであり、劉から酒虫を取り除くことは劉にとって死も同然だったのだろうか。 というところで終わる不思議な小説である。 実は、アル中とはこの酒虫のようなものかもしれない。自分が飲むのではない。酒虫が飲むのである。 う~む。アル中、恐るべし(この項終わり)。**********************************謎の不良翁 柚木惇 Presents**********************************