広島帰省考11年2月編(中編)
広島帰省考11年2月編(中編) 施設に着くと、母は既に食堂で車椅子に乗って着席していた。今回は、母の好物である「呉汁(ごじる)」を持参したのである。 呉汁については、少し解説しなければならない。 これは我が家秘伝の「汁(つゆ)もの」である。 原材料は大豆。大豆を一晩水に浸しておき、ミキサーで大豆を細かくする。この細かさ加減が難しい。味噌と出汁(だし)をベースとし、豆腐と油揚げを入れるのである。 美味なのである。 同時に、これが母の味である。おいらは、呉汁を我が家と親戚以外で食べたことはない。 その秘伝の味を母が愚妻に伝えているのである。母は6年前の脳梗塞による入院後、一度も呉汁を食していない。 だから、横浜で早朝作った呉汁をタッパ―ウエアに入れて、その日のうちに母に食べて貰おうと持参したのである。 母はおいらの顔を見て、嬉し泣きをするのである。 おいらは、「母さん、今日は呉汁だよ」とテーブルの上に呉汁を置く。一瞬、何のことか意味が分からないという表情をした母が呉汁を見ると、目が輝いた。 電子レンジを借りて、呉汁を温める。これが旨い。本当に旨い。母には何杯お代わりをしても良いんだよと伝えてあるので、嬉しそうに食べる。 我が家の味。母の味。呉汁。 ちょっぴり、親孝行をした気分になった。 さて、母の調子である。悪くない。意識も相変わらず、しっかりとしており、笑顔を絶やさない。安心した。 親孝行を今後も続けるぞ(この項続く)。*******************************************謎の不良中年 柚木惇 Presents*******************************************