199713 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

月夜に夢を  

月夜に夢を  

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008.08.12
XML
カテゴリ:Life
アトピーを持っている 妙齢の女性のお客様がいる。
調子が良さそうなときと そうでないときと 肌の状態にかなり波があって
今日は 間違いなく後者だった。
他の社員がみな留守にしていたので 気の緩みもあったのだろう。
ふとした合間に ポリポリと服に手を突っ込む。
目に見える部分だって 粉をふいてしまっていて 見るからに痒そう。
お化粧だって出来ないだろうし 下着だって制約されるだろうし
大変だなと同情しながら彼女の机に近づいたとき ふと呼び起こされた匂いの記憶。

どこかでこれと同じ匂いを嗅いだはず。
そう思って 記憶の糸をたぐれば それはあたしが中学生だった頃のこと。

十年以上も前なのに 自分が彼女の名前を覚えていたことに驚いた。
あたしたちは 特に親しかったわけではない。
そう だって彼女に親しい友人はいなかったのだから。

フケのような細かい白いものを振りまいて いつもうつむいて自分の席に座っていた。
要するにそれは 彼女の はがれおちてしまった皮膚なわけで。
腕も足も首も見えるところすべて ぽろぽろとむけてしまっていて いつも赤く
そして その 匂い を全身からはなっていたのだ。

そうか。あれは 痒みをとめるクリームの匂いだったのか。
お客様の机の上にのったその容器を眺めながら 合点がいった。


クラスの男の子のように 机を離して 露骨に彼女を避けていたわけではない。
それでも たぶん あたしは 
その匂いに閉口して 彼女に近づくとき息を止めていたような気がするし
何より いつもひとりぼっちだと知っていながら そのままにした。

ごめんなさい。つらかったよね。

今のあたしだったら もうちょっと いろんなことがわかるし 受けとめられるし
きっとあなたを そのままにしたりはしない。

だけど あの頃のあたしはまだ 自分で思っていたよりずっと子供で 傲慢で
あたしの人生は 自分次第でどうとでも切り開けると思っていた。
好きなように。思い通りに。

自分の力の及ばないところで苦しむ 他人の痛みなんか想像もせずに。



大人になって わかることもたくさんある。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2008.08.13 00:58:31
[Life] カテゴリの最新記事


PR

Profile

月夜夢.

月夜夢.

Category

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
X