知らぬこととはいえ
手術は無事成功したという医師の説明を受け 麻酔から目覚めた父と会話を交わしその管をたくさんつけたままの姿と その思っていた以上に痩せた彼の身体に 幾分ショックを受けながらもひとまず安心、あとは回復を祈るばかりと あたしは思っていた。だからこそ 連休は天気もよさげだし娘のバイトが休みの日に合わせて 日曜は父の病院にみんなでお見舞いに行くとしても初日、つまり今日は ここのところ遠ざかっている山へでも行こうと思っていたのだ。勉強しなくちゃという焦りも見ない振りをして わくわくしながら行先を決定し のんきに地図を眺めていた。てっきりもう 癒着を防ぐために父はせっせと歩く練習をしている頃だと思っていたし仕事をして学校に行って あたしはすっかり普通の日常に戻っていた。 まさか もう一度 お腹を開くほどの事態になっていようとは。しかも夜中に。これでもう落ち着いたはず、と 電話越しに母は言う。知らなかったこととはいえ あたしがぬくぬくと布団で眠っていた頃夜中の病院の待合室で さぞかし心細い思いをしたに違いない。その声には疲れが出ている。ごめんね。お母さん。とりあえず山は取りやめて 今日は病院へ向うことにした。