推理小説やサスペンスにはやや飽きてきたところに、
図書館で手にとってみた重松清の1冊である。
重松さんの作品はいじめや大切な人の死など、
切なくて辛いことがしばしば描かれているが、
家族の絆や人間の優しさなどが深く語られており、なぜか安心するのだ。
この‘卒業’には4つの短編が収められてとり、
いずれも家族や人との関わりについて考えさせられるものである。
病気の母の死を目前に向かえ、子供の頃を回想する40歳の息子・幸司。
彼の妹・まゆみは子供の頃、人とはかなり違った行動を取るため、
学校生活になじめず先生からも友人からも理解されずに、引きこもりになった。
しかし、どんなときも母は妹を叱らず、ずっとずっと見守り愛し続けた。
そんな母に苛立ちを覚え、反感を持っていた幸司であったが、
大人になったまゆみと、今意識不明の母の前で語り合ううちに、
いろいろな思いがこみ上げてくる。
幸司の一人息子もまた、今現在不登校になっていた。
まゆみから聞かされた母の果てしない優しさを知るうちに、
幸司は引きこもりのわが息子への対応や感情を振り返り、ある思いに到る・・・
これは、最初の短編「まゆみのマーチ」である。
親としてのあり方や、子供への真の愛情について考えさせられる作品だ。
他に、「あおげば尊し」「卒業」「追伸」が納められている。