アルデンヌの森にて 1
ベルギーの南西部にあるアルデンヌの森に4日ほど、オランダ人の友人とハイキングに行ってきた。ベルギーといったらあまりイメージの沸かない人が多いだろうと思う。実際に日本人のみならずヨーロッパ人にとってもこの小国は「つまらない」「ちょっと変わっている」というイメージがあるだけで、周りを囲むフランス、ドイツ、オランダには完全に飲み込まれているように見える。ロンドンでベルゴというレストランチェーンが、ムール貝を白ワインとバターで煮込んだ鍋料理とマヨネーズをつけて食べるポテトフライという伝統的な料理と、アルコール度や味がかなり一般的なラガーと異なる地ビールを10年ほど前に紹介したため、ベルギーのイメージというのは普通の英国人もある程度持つようになっている。レストランのメニューでこの鍋料理は1キロのムール貝となっている。もちろん99%貝ガラである。文句として嘘を言っていない。しかし倫理的でないのは確かだ。しかしうまい。そしてマヨネーズとポテトフライとのコンビネーションでデブになること請け合いだ。ホーガーデンと呼ばれるベルギー産の白ビールはまろやかなのにスッキルした味で、トレンディーなバーに行くとたいてい置いてある。そして普通のラガーと比べてやたら高く値段が設定してあるので注文する前に値段を告げられることが多い。地ビールの種類が多いのは、修道院で質の低い水を飲むことができなかったためビールをつくりはじめたらしい。破戒坊主たちめ。今回の旅行の目的のひとつとしてビール蒸留所を訪れて品質チェックをすることが含まれている。ロンドンから海峡を高速列車ユーロスターで越え、ブルッセル駅でアムステルダムから車でやって来たオランダ人の友人に出口で会う。ハイキングに行くはずなのにネービージャケットにChurch’sの靴。「お前、アホか」のコメントが喉に詰まる。後で彼は私に駅で会う前にブリュッセルにある紳士クラブに行くつもりであったことが判明する。サラリーマン家庭で育った私とはライフスタイルがだいぶん違うのである。友人の10年もののフォルクスワーゲン・ゴルフで高速道路を走り出す。指示器を使わずに車線を次々と変え前方をさえぎるフランスナンバーの車に友人はかんしゃくを起こす。「こんな糞ったれの運転をする野朗はフランス人かオランダ人しかいない!」 ガイドブックによればベルギー人ドライバーはヨーロッパでも最悪の部類にあたるらしい。横断歩道でも後ろの交通を止めるのはよくないということで絶対に止まらないという哲学を持った輩が多いそうだ。また、路を譲ることは一旦譲りだせばキリがなくなるので最初から考えるにも値しないらしい。こういった無謀運転とは無縁の英国でもヒヤヒヤする私にとっては大陸では運転をするのはできるだけ避けている。狭い田舎道で対向車が近づいてくるのを見て、私の心臓の鼓動はスラッシュ・メタルのビート数になる。ぶつかるぞ!ヒューーーーーン。ぐううう。つむじ風が後ろにすっ飛んでいく。まるで決闘のようだ。ニースで会ったフランス人が「このゲームに参加する際の注意点は怖がってブレーキを踏まないことだぜ」と言っていたっけ。