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語りと筆しごと~書家香玉のうずまき帖

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2011年05月10日
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カテゴリ:父を想う
大量に遺された父の作品を、家族親戚、親しい方々に少しずつ形見分けさせてもらっています。

2008年のちょうど今頃に開催した個展で披露された『懐徳』は、去年、懐くんという名の男の子が仲間入りした家にお持ちしたところ、とても喜んでいただき、玄関正面に。

さぞや父も喜んでいることでしょう。

懐徳という言葉、辞書等でいろいろ調べてみたけれど、はっきりとその意味を示すものを見つけられません。東大キャンパスには懐徳門という名の場所があるとか…

父はどこでこの言葉と出会ったのでしょう。
生前、父は、書に関するさまざまな文献や詩歌の一節などから、心に響いた言葉などを抽出し、自分なりの作品として揮毫したりもしていました。
書棚にはたくさんのメモノート、切り抜きファイルも残されています。
そのうちにそっくり譲り受けたいと思っていますが、今はまだそれらに手をつけられずにいます。
きっとどこかに懐徳のことも記してあると思うのですが…なぜこの言葉を選んだのか、あらためて訊ねてみたかったなぁと今となって悔やまれます。

ふところに…とく。
想像するに、懐をあたたかく充実させるのは、その人そのものの生き方、少しずつ積み上げていく知性であり、仁徳である。それは千金にもまさるものである。
徳で懐をいっぱいにしよう…そんな意味ではないかなと思っています。

そう考えれば、父の生き方、想いにすごく合っているように思います。

父はまったく、お金儲けの苦手な人でした。あちこち頼まれる挨拶状や看板なども、自分の字で良ければとなんの請求もせず喜んで引き受けていたし、月謝の払えない家庭の子供たちにも、来るものは拒まずと普通に習字教室に迎え入れていました。

まとまった遺産などは残っていないかわりに、引き出しには、教室の月謝や気持ちばかりの謝礼など、千円札を中心にコツコツと束ね入れた封筒が、いくつか出てきました。

私が社会人になって父に時々送ったお金、個展開催の際のお祝い金、台所改修のときに少しの足しにと贈ったお金、長男が父の教室に参加したときのお礼金などなども一切手をつけず、表に美香よりと書かれた封筒にそっくり入っていました。
愕然としました。
子供の頃から貧しく、お金に苦労した父。
晩年にはお金には変えられないものをたくさん持っていたんだなぁと思います。
大きくあたたかい懐を持ちたいものだとしみじみしました。





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最終更新日  2013年10月25日 11時32分04秒
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