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語りと筆しごと~書家香玉のうずまき帖

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2011年09月26日
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カテゴリ:父を想う
去年のきょう、ということをよく考える。
去年の今頃は父がまだ生きていたから。

4歳から父を師に書道を始めた私は、相当なファザコンでいつも父に褒められたいとばかり思っていた。

去年の夏に末期の胃癌だとわかり、入院して緊急手術。状態は一向に改善されなかったが、去年のきょう、名目だけの退院が許された。おそらく自宅に帰れる最後のチャンスかもしれないと医者から小声で告げられてのことだったが、父はどんなに痩せこけても前向きで明るく、必ずまた元気になる、そう簡単には死なんと笑ってくれた。たぶん最後まで私から頼りにされる強い父でいたかったのだと思う。

たまらなく辛い秋だった。
そんな中で、昔、KBCで一緒に仕事をした人が今の私の筆仕事を知り、今度、担当する番組のセットで使うタペストリーを書いてもらえないかと言ってきた。父のことで頭が一杯だった私は、最初は断ろうと思ったけど、父が喜んでくれるだろうと思い直し、懸命に筆をとった。

依頼されたのは「龍馬」という二文字。昨年の竜馬ブームに乗って、九州山口ブロックネットで坂本竜馬ゆかりの地やエピソードを紹介する番組だった。
父も坂本龍馬が好きで、書斎に写真を飾っていたし、収録が終わってから頂いたタペストリーをすぐさま病室に持っていって、父のベッドで広げると、それはもう喜んでくれた。
テレビにあんたの書いた字がでるなんてすごい!よく書けとる、勢いがあってよろしいとベタ褒めだった。字のことでは普段なかなか簡単には褒めてはくれなかった父だったから、なんとなく逆に切なかったが、父の笑顔は素直に嬉しかった。

奇しくも退院の日が、放送日だった。去年のきょう。

入院中は一切テレビを見なかった父。だけど家に帰ればテレビに映る私の字を楽しみに見てくれるだろうと思っていたけれど、帰ってきても、リビングの隣の和室に敷いた布団からなかなか起き上がれず、とうとう見てもらうことは叶わなかった。
録画しておいてね、あとから見るからと言いつつ、結局、翌日には病院に逆戻り。点滴なしではどうにもならず、気ばかりが焦って思うようにならない自分が本当に悔しい様子だった。

それから2ヶ月ともたずにお別れとなった。
後から知ったことだが昏睡状態となったその日は龍馬の命日だった。

これからどんどん寒くなって11月がやってくるのがなんとなく怖い。

去年の今頃は…と生きていた父を思い出せる時間がどんどん少なくなっていく。





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最終更新日  2013年05月05日 00時27分46秒
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