在宅介護サポート隊5.0
今、認知症の現場では「盗られ妄想」という言葉は日常的に使われている。具体的には「嫁が私の年金を盗る」「隣の人が私の入歯を盗った」等など例を挙げればきりがない。 私は認知症、特にアルツハイマー病ではこの独特な表現の仕方、つまり自分が仕舞い忘れたことを棚に上げ、その責任をたまたま側にいた人に転嫁する考え方、表現の仕方を分かり易く読者に伝えるために「盗られ妄想」と呼ぶように講談社から1992年上梓した「呆けないための行き方計画」という本の中で提唱した。 その当時「妄想」という言葉を認知症(当時は痴呆症)に使うとは如何なものか?という叱責やお小言を頂いた。「およそアカデミックではない」というお言葉を当時の偉い人から頂いたりもした。「妄想」という言葉は統合失調症や気分障害の場で使うべきで「認知症の場で使うべきではない」「認知症に偏見を生む」という意見も頂いた。 あれから、20年「盗られ妄想」やそこから派生した「物盗られ妄想」という言葉が認知症の専門書にも普通に出てくる。この前、小さな学会があり若い研究者が「アルツハイマー病における盗られ妄想の特徴」というテーマで講演していた。講演後立ち話で若い講演者に「盗られ妄想」というのは私の造語、と話したら目をパチクリしていた。 そんな背景を元にして「老年精神医学雑誌」2012/Vol.23を開いていたら大阪大学の武田雅俊先生のグループの数井裕光先生が「アルツはイー病の妄想」と題した論文を発表していた。そこに、アルツハイマー病が「妄想」を抱きやすくなる仕組みが図式で示されていた。それを見て「分りやすい」と思った。論文を拝読させて貰いながら時代は変わったと思いました。Hiroaki Kazui,Hiromichi Sugiyama,Keiko Nomura, Kenji Yoshiyama,Masatoshi Takeda:大阪大学大学院医学系研究科精神医学〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2D3出展:老年精神医学雑誌¥2012/Vol.23 増刊号-1