2442383 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Pastime Paradise

Pastime Paradise

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2020.10.11
XML
カテゴリ:Heavenly Rock Town
地上では偉大なギタリストの訃報にミュージシャン仲間や世界中のロックファン達が続々と哀悼の意を表しているが、この町でも彼の話題で持ちきりである。
「ついにエディも来ちまったな…」
 こちらに越してきてからちょくちょく遊びに来てくれるジョーイが、リビングのソファに腰掛けるなり低く唸った。
「そうだね。地上の人達は随分寂しい思いをしているみたいだ」
 既に地上での生命を終えてこの町にいる私達にしてみれば、それは哀しみではなく、どちらかというと真逆の感情で迎え入れるものなのであるが、リッキーは今なお地上に暮らす人々の想いに寄り添うような静かな口調で答えた。
「なあリッキー、これは風の噂で聞いたんだけどよ、エディがこのタイミングでこっちへ来たのは今回のロックフェスに出てもらいたくてアイツが呼んだんじゃないかって…」
 胸のポケットから取り出した煙草を銜えていたベンは、ここまで喋ってからライターで火を点けて紫煙を吐き出した。ベンは嘗てリッキーが世話役を務めたことから、この世界で20年来の親友であり、一昨年まで私達と同じアパートメントで暮らしていた。
「アイツってもしかしてルーファスのこと?」
「あ、俺もその噂は聞いた。フェスで “Beat It” を演ってもらうのに悪魔が呼び寄せたとか」
「何だよその噂。いくら何でもそんなことぐらいでわざわざ呼び寄せないだろ。悪魔とはいえ、そこまで人の生命を軽んじたりはしないはずだ。ベンもジョーイも馬鹿な噂を真に受けるなよ」
 珍しく強い口調でリッキーが二人を非難した。彼はこの町の支配者たるルーファスに一番近い、悪魔が最も信頼している理解者でもある。
「いや、真には受けちゃないけど、何となくアイツならやりかねないだろ」
 ベンは悪びれる風も無く、肩を竦めた。以前、プレスリー町長がリッキーの失脚を目論んで失敗した際に、ベンはルーファスが苦手だと言ってたっけ。
「ルーファス?…あ、ルーファスってアレか、こっちに来るとき誘導してくれた得体の知れない若造。悪魔ってアイツのことだったのか」
 ベンも私も、リッキーとずっと一緒にいたからルーファスと接する機会があっただけで、本来であればジョーイと同じ認識であっただろう。うんうん、分かるよジョーイ――私は軽く頷きながらジョーイを見た。……あれッ!? ジョーイってちょっとだけ見た目の雰囲気がルーファスに似てるかも!? うーん、確かルーファスは何とかって言うゲイポルノアクターにも似てるんだよね。ということはジョーイはその人にも似てるのかしらん…。
「マイケルは俺達と同じC会場だったよな、ジョーイ」
「ああ、初日のヘッドライナーだったはず」
 3、4日前からリビングのテーブルに置きっ放しにしてあったロックフェスの案内チラシを、皆で覗き込んだ。ベンとジョーイの言ったとおり、C会場で25日の6番手にマイケル・ジャクソンの名前がある。ラモーンズは翌26日の4番手、ベンとリックの即席バンドは27日の3番手である。
「もしエディが本当にマイケルのバックで演奏してくれるなら、キオも俺も楽しめるんだけどなあ。俺達、25日から27日までC会場に行く予定なんだ。キオは君達の演奏は勿論のこと、ジミ・ジェイミソン&ポーカロ兄弟も観たいらしい」
「うん。そこの練習スタジオから流れてくるのを毎週聴いてるうちに、気になっちゃって…」
 史上最も売れたアルバムであるマイケル・ジャクソンの「Thriller(スリラー)」からの第3弾シングル “Beat It(今夜はビート・イット)” は、ビルボード年間ランキング5位にも輝いた大ヒットナンバーであるが、この曲のギター・ソロを弾いているのがエディ・ヴァン・ヘイレン(Eddie Van Halen)だ。エディはつい先頃、10月6日に65歳にして喉頭癌によりこちらの世界に来たばかりである。ちなみに同曲でドラムを叩いているのはTOTOのジェフ・ポーカロなので、25日はジェフが出ずっぱりになりそうだ。
 リッキーは噂を即座に否定したものの、正直なところ、私もルーファスなら何食わぬ顔で呼び寄せてしまうような気がしないでもない。果たして真実や如何に!?
 
 後日談――ロックフェスは当然ながら大盛況。ウッドストックやUSフェスティバル等をはるかに凌ぐ観客動員数だったとか。私を含めた大多数の観客は、過去の名立たるミュージシャン達の演奏を生で見られて大興奮!やっぱりステージに立った彼らはこの世界で普段見慣れている姿とは大きく異なり、眩いオーラを放っていた。そして、リッキーとの初めてのお泊り旅行はやはり何事もなく(勿論部屋は別々だった)、普通に楽しんできただけなのであった。

 Edward Lodewijk Van Halen (January 26, 1955 – October 6, 2020)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023.08.03 16:26:55
コメント(0) | コメントを書く
[Heavenly Rock Town] カテゴリの最新記事


PR

Free Space

Recent Posts

Category

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News


© Rakuten Group, Inc.
X