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カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
村上春樹に関してはシロウトなんですが、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は設定がとってもファンタジーなので、なかなか興味深いです。ちなみに、私が初めて読んだ村上春樹で、そのあと『ノルウェイの森』『国境の南、太陽の西』を読んで、それっきりです。
この物語は「世界の終り」という話と「ハードボイルド・ワンダーランド」という話が交互に1章ずつ語られて進んでいきます。 読んだ方はご存じのように、「世界の終り」では主人公が壁に囲まれ一角獣の居るさびしい町に来て住むことになりますが、これは実は主人公の脳の中にあるイメージであり、つまりファンタジー世界。一方、「ハードボイルド・ワンダーランド」は主人公が実際に生活している現実社会。それが交互に出てきて互いに微妙な影響を及ぼしながら同時進行していきます。 この手法は、ファンタジー的第二世界と現実とを行き来するミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を思い起こさせます。じつは、ファンタジー小説では珍しくもない構成。というより、ファンタジーを読むという行為じたいが、こんなふうに第二世界と現実を行きつ戻りつしているのです。 「世界の終り」の方は、本に囲まれた町の地図がついているうえ、一角獣とか夢を読むとか、ファンタジー的アイテムがいっぱい。特に、主人公が自分の影と引き離され、その「影」が一個の人格を持つあたりは、河合隼雄の『影の現象学』にたくさん紹介されている、古今東西の影をテーマにした物語と共通点がありそう。 たとえば、主人公は影を失ったために、「心」を次第に失う危険にさらされます。壁に囲まれた町にはそうやって心を失った人ばかりが住んでいるのですが、心がないといっても彼らは一見、ふつうに物事を感じたり考えたりはします。ここでいう「心」とは、河合隼雄が「たましい」と表現したもののようです。 さて「ハードボイルド・ワンダーランド」の方も、主人公にとっての現実世界とはいえ、なんだかのっけからあやしい展開です。 この舞台設定を「近未来社会」だと解説しているのをネットのどこかで見かけたのですが、通り過ぎる車からデュランデュラン(80年代のポップスグループ)の歌が聞こえるのですから、これはその当時の「現在の現実社会」の一種なのだと思います。「一種」と言いたいのは、この世界が主人公から見たものすごく主観的な世界で、しかもあとになるほど微妙にゆがんできているので、実はこれもまたファンタジー世界だったのではないかと思われるからです。 じつは私自身は、このような架空世界に、現実の固有名詞を持ちこむのはキライなんですけど、しかもそれが私の好きだったデュランデュランで、そのうえ主人公(村上春樹氏)がそれを思い切りけなしていたりするので、ますますムッときちゃうのですが・・・ 閑話休題。「ハードボイルド・ワンダーランド」は、そのタイトルがすでに『不思議の国のアリス』(アリス・イン・ワンダーランド)を示唆しており、物語冒頭に出てくるエレベーターは、アリスがうさぎ穴を地下へとゆっくり落ちていくシーンを暗示しています。『アリス』の原題は「アリス・イン・アンダーグラウンド」ですが、村上春樹の主人公もさらに地下の不思議の国へと下降していきます。 その地下への入り口がクロゼット(衣装だんす)の奥に隠されているというのも、『ライオンと魔女』(ナルニア国ものがたり)の設定を彷彿とさせます。 つまり、「ハードボイルド・ワンダーランド」の世界もファンタジー(架空)であるというしるしが、あちこちに散らばっているのです。 途中をとばしますけれど、結局「世界の終り」の主人公は「影」と一緒に町からの脱出を計画しますが、土壇場で思いとどまり、「影」だけが深い淵にとびこんで、地下水路を使って外界へ脱出することになります。そのとき、「鳥」(ユング心理学ではたましいの象徴)が壁を越えていくのが見えることからも、「影」はやはり「たましい」なのですね。 一方、「ハードボイルド・ワンダーランド」の方では、主人公は知らぬうちに組みこまれた脳内回路「世界の終り」に意識が閉じこめられる羽目に陥って終わります。それは「死」に似ていますが、彼の脳を手術した老博士はそれを「永遠の生命」であると言います。 そこで私は思ったのですが、「ハードボイルド・ワンダーランド」の最後で「現実世界」の意識を失った主人公は、その後「世界の終り」の町に行き着く、つまり物語冒頭につながっていくのではないでしょうか。 そして、「世界の終り」の最後で町を脱出した「影」こそが、「ハードボイルド・ワンダーランド」の現実世界の主人公だったような気もします。 つまり、2つの物語は最後と最初がつながって、ウロボロスの蛇の輪のように永遠にぐるぐるめぐり続ける、一種の「はてしない物語(ネバーエンディング・ストーリー)」に思えます。これもまた、ファンタジーではよくとりあげられるテーマであり、深く掘り下げるとまだまだいろんなことが言えそうです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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