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テーマ:本日の1冊(3696)
カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
インディ・ジョーンズのシリーズ最終作がいよいよ上映! とのことで、過去作品もテレビ放映されていましたが、私は3番目「最後の聖戦」が好きです。西洋のファンタジーで一大勢力を誇る「アーサー王もの」の重要アイテム「聖杯(グラール)」をめぐる物語ですから。
「最後の聖戦」の聖杯は飲むと永遠の命が授かるという設定でしたが、今回とりあげる『常世の森の魔女(原題だと「心の聖杯」)』では、イエス・キリストの磔刑を笑った女クンドリーが、呪われて千年も生き続け魔女となっています。 クンドリーはもともと、ワグナーのオペラ「パルジファル」の登場人物です。聖杯守護者アムフォルタス(傷ついた漁夫王)に薬を持ってくる(第一幕)のに、悪の魔術師クリングゾル(=クリンゾール)にあやつられパルジファル(=パーシヴァル)を誘惑する(第二幕)、善悪両面を持つとされるそうです。そもそもアムフォルタスが負傷したのも、クンドリーが誘惑したからなのです。 魔術師に支配されたせいでクンドリーはこの物語のすべての悪を引き起こし、呪われ錯乱し、最後には魂の救済を得るけれどそれはすなわち死ぬことでした。善でありたいと願いながら悪に染まり、苦悩と献身のはてに死して救われる、つまり多くの人間の一生を象徴しているとも言えそうですが、・・・普通に考えるとなんだか、どうしようもなく気の毒な役回りですよね。 『常世の森の魔女』では、このクンドリーの生涯が語られます。悪の手先になったいきさつ、なぜキリストを笑ったのか、どのようにアムフォルタスを誘惑し後悔し、苦しんだか、など。 作者の創造のかなめは、クンドリーがアムフォルタスをたらしこんだ時に、千年来で初めて恋心を抱いたので、必死に彼を救おうとするところ。アムフォルタスも、陥れられて、傷と恥辱と後悔しかなくなったというのに、クンドリーが最後に見せた苦痛と後悔の表情を信じて、彼女への愛と赦しを心に確認する・・・つまり純愛ものなんですね。 ところが、このロマンチックな設定、私にはどうもピンと来なかったです。 まず、キリストの時代から千年も高級娼婦をしてきたクンドリーが、なぜいまになって初恋みたいにアムフォルタスへの愛にめざめるのか、その実感がわきません・・・確かにアムフォルタスは彼女を貴婦人として大切にしましたが、千年の経験のうちには同様に彼女にいれこんだ男性も一人や二人いたでしょう。何が彼女の琴線に触れたのか、・・・まあ恋愛ですから理屈抜きの運命的な出会いだったんでしょうか。それならもうちょっとそれらしく、特別な何かが描かれてほしかったですね。 アムフォルタスも、彼女に会う前から、聖杯守護者としての人生に息苦しさを感じて十字軍従軍時代の生活を懐かしむばかりで、どうも魅力に乏しい感じ。 ともあれ、クンドリーは魔術師クリンゾールによって過去につき返され、呪われた千年の生涯をくり返す羽目に陥ります。そこで、彼女は、自分の行動によって過去を改変してキリストの受難を阻み、ひいてはアムフォルタスの恥辱というのちの歴史を起こりえないようにしよう、と努力します。遠大で無謀な、神をも恐れぬ計画ですが、彼女は必死です。そして案の定、普通の人間と同じに見えながら彼女より器の大きいキリストを前にして、彼女はその運命を変えるために動くことは結局できませんでした。絶望するクンドリー; その瞬間、傷口から毒が噴き出すように哄笑が湧き上がった ーースーザン・シュウォーツ『常世の森の魔女』嶋田洋一訳 この場面はなかなか説得力があります。小手先だけで運命を変えようしても、無理だとさとった時の無力感が絶望の笑いとなってしまったのですね。 でもつまり、クンドリーの個人的な愛の心だけでは、呪いは解けなかったということです。 そして「憐れみにより賢者となった愚者」パルジファル(=パーシヴァル)の登場となります。 オペラの筋書きを言えば、クンドリーが彼を誘惑しようと語りかけキスをしたことで、彼はおのれの役割に目ざめて聖杯の奇蹟を起こし、アムフォルタスやクンドリーの魂を救うのです。物語の方でも、救い主はパーシヴァル。原話のテーマである宗教的救済が踏襲され、二人の純愛は、無力でした。 というわけで、宗教劇にロマンスを持ちこんだ物語としては、ちょっと中途半端なんじゃないかなー、と思ったHANNAでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 3, 2023 01:27:49 AM
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