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HANNAのファンタジー気分

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March 10, 2011
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テーマ:本日の1冊(3697)
 1980年の作品で、当時はファンタジーは日本ではまだ珍しいジャンルでした。が、なぜか日本でも小人のファンタジーは、さとうさとるとかいぬいとみこが、もっと以前から書いていますね。

 この『はなはなみんみ物語』シリーズも小人の家族の、ほのぼのと暖かい、けれどニッポン的なかげりもあるお話です。“ニッポン的なかげり”とは、私の勝手な言葉ですが、子供時代、いぬいとみこ『木かげの家の小人たち』を読んだとき感じたもので、つまり私たちより前の世代の人たちが必ずと言っていいほどひきずっている戦争の痛みのことです。
 おさな心に、私は、この手の“かげり”が出てくる話は怖くて読むのがイヤでした。

 ・・・小人のふたごの兄妹「はなはな」と「みんみ」が、おじいさんのひきうすの歌にこめられていた魔法の呪文に気づき、空を飛ぶ。同族の小人たちが遠くにいるという話を聞いて、彼らをさがしに一家で旅に出る。おそろしい「羊びと」につかまってしまう・・・というような、魔法と冒険旅行のお話だけの方が、私には安心して楽しめるんですね。
 でも、そこに小人一族の繁栄と没落の歴史、同族で殺し合った過去というのがからんできます。食べ物を作るかわりに武器となる「いかり草」ばかりを育て、戦いのために魔法を使ってついにはほろびた小人たちの国。その生き残りであった白ひげじいさん。
 そういった底流があってこそ、物語はより深く、広く、長くなったのでしょう。
 けれども、作者の心があまりにも強くそこにこめられているために、私は逆に“かげり”の部分が出てくるたびにファンタジー世界から現実へどん!と突き返されるように感じます。

 白ひげじいさんは、戦争の時、いかり草から作った爆弾「いかり玉」を体にくくりつけて空を飛び、敵に体当たりする「空中隊員」でした。その有様は、先の大戦時の特攻隊そのままなのです。
 生き残ってしまった彼は、空を飛ぶ魔法を二度と使うまいと誰にも教えず、そのくせ忘れきってしまうこともできずに、粉挽き歌にこめて何度も何度も歌い続けていたのです。
 白ひげじいさんの罪の意識の重さは、北国の美しい自然の描写や、りすやうさぎとのメルヘンチックで暖かいふれあい、悪とはいえ自然の精霊であった「羊びと」との戦いなどの中で、かなり異質なのです。
 この異質な重さを気にしながら読み進んでいくうち、おじいさんは「羊びと」にとらわれた家族を救うために、封印していた魔法を使い、爆弾をかかえて“特攻”して、死んでしまうのです。
 ほろびた小人族ぜんぶの罪を白ひげじいさんに背負わせて死なすのが、作者の意図だったのでしょうか。もう一人の戦争体験者、爆弾づくりの研究者だったもえびじいさんは、髪をふり乱して苦しむのです;

  「罪深いわしが、こうして救われるとは……この死にふさわしいのは、このわしだったのに……」
                  ――わたりむつこ『はなはなみんみ物語』

 単に年老いた者が先に逝くとか、罪を犯した者が犠牲になるとかではなく、くいあらためて贖罪に余生をささげてきた者が、このような死に方や生き残り方をする、というのは、一筋縄ではいかない運命観や死生観で、ノンフィクションならともかく、ファンタジーというジャンルのかなめのエピソードにこれが表れる。それが“ニッポン的なかげり”。
 私は大人になって読み返しても、なぜ白ひげじいさんが最後の最後に自己犠牲的“特攻”をしなければならなかったのか、分かりません。

 ともあれ、仲間は見つかったものの非常に重い過去を引き継いだ小人一家たちは、ほろびたふるさへ新たな旅を始めることになり、第1巻は終わります。

 実は続巻は手元にないのです。昔の読後感があまりに重かったので・・・。
 近年また復刊されたようなので、再読しようかなとも思うのですが。
 





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Last updated  March 10, 2011 11:36:50 PM
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