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HANNAのファンタジー気分

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January 7, 2012
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テーマ:本日の1冊(3697)
 辰年なので、ファンタジーを標榜するこのブログでもやっぱりドラゴンで始めなくては!と思いましたが、洋風のドラゴンの物語は掃いて捨てるほどあるので、ここは一つ「龍」の字を使っているマカヴォイの『黒龍とお茶を』で始めようと思います。

 マカヴォイはそのむかし、「魔法の歌3部作」の表紙絵を中山星香が描いたので買い求めたのですが、それがまあまあ面白かったので、『黒龍とお茶を』も買ってみたのです。 しかし、物語に出てくる勝ち気な新進エンジニアのリズよりもまだ少し、私の方が年下だった当時、リズの母親(50歳)と初老の中国紳士(もっと年上、じつははかりしれないほど)との、上品なラブストーリーは、どうもピンと来なかったというのが本音です。
 それに、早川FT文庫の割には、なかみはコンピューター犯罪のからんだ誘拐劇で、壮麗に天を舞う龍の姿なんてものはまったく出てこないのです。

 しかし、今やヒロインのマーサの年齢も近づいてきたせいでしょうか、読み返してみると、なかなか小粋でエキゾチックな、味わい深いロマンスなのでした。
 コンピューターの話題は四半世紀も前なので何だか古くさく、事件のどたばたも軽いですが、そのレトロな軽さが心地よく感じられる・・・のは、やっぱり歳のせいでしょうか。

 ともあれ、なんと言っても中国紳士メイランド・ロング氏が、ものすごくステキなんです。アラフィフ女性向けの白馬の王子様とでも言えそう。

  ロング氏は椅子にすわったまま背を伸ばし、それによって蔭の中に消えてしまう。両手を触れ合わせ、それから開くので、まるで空中に鳥を放つかのよう・・・(後略)

  ロング氏は、まだ腰かけたままだ。口の前で両手の指先を合わせて、教会の尖塔のようにしているので、顔の一部が隠れている。(中略)・・・しなやかに立ち上がった。椅子の肘掛けには触れもしない。           --R.A.マカヴォイ『黒龍とお茶を』黒丸尚訳

などという描写で、裕福で上品な彼がただの金持ちの有閑老人ではなくて、神秘的な、内に力を秘めた魅力的なおじさまに仕上がっています。

 サンフランシスコのホテルのスイートに滞在し、絹のスーツを着こなし、真っ白なシャツに浅黒い肌、西洋的な微笑と中国風の微笑を巧みに使い分け、コンピューターのことも理解してしまう、スーパー紳士。会話の途中でチョーサーなど古典を不意に引用し、禅やタオイズムについて語り、達磨大師を個人的に知っているなどと話しても、この人なら鼻につかず、嫌みもありません。
 それもそのはず、彼の正体はブラック・ドラゴン・・・人間になったドラゴンなのでした。

 ドラゴンだから超人的パワーを持っているとか、魔法を使うとかではないので、物語が佳境に入ってもいわゆるファンタジー的なミラクルはありません。しかしそれでも、圧倒的なロング氏の存在感と、おばさんながら芸術家でそれゆえにかシンプルに本質を突くマーサとが、お似合いのカップルになっていく過程はちょっとマジカルな感じもします。

 年を重ねた教養の深さと威厳、ノーブルでお金持ち、しかも寝姿の描写はパワフルでセクシーという、非の打ち所のないロング氏の魅力は、極上の烏龍茶のシブかっこよさに似ています。そう、彼は烏龍(ほんとはお茶の名前にすぎず、こういうドラゴンはいないそうですが)の化身なんですね。





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Last updated  January 7, 2012 11:06:17 PM
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