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テーマ:本日の1冊(3696)
カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
しんしんと冷える夜に外の風音など聞きながら読むとよいかも、の本を、棚の隅から探し出しました。80年代の早川FT文庫、冬景色に展開するタニス・リーのおとぎ話2つをおさめた『冬物語』です。
タイトルにもなっている一つ目の「冬物語」(原題The Winter Players)は、荒涼たる冬の海辺に立つ、小さな神殿からお話が始まります。神殿が代々守ってきた聖なる骨を、よそ者の男が盗んで逃げたので、責任者である若い巫女は必死に後を追いかけます。 大人の読者には、彼女がなぜ神殿を放置してまで、ひたすら盗人を追いかけるのか、何となく想像がつきます。聖域に強引に侵入した男が奪ったのは、彼女の“女心”なのですから。 ♪わたしの胸の鍵を/壊して逃げていった あいつは何処にいるのか/盗んだ心かえせ という歌(ピンクレディー「ウォンテッド」)というのがありましたが、まさにそんな感じですね。 ところが追いついた男は彼女に わたしたちは不思議なゲームの競技者(プレイヤー)なんだ。あんたと、そしてこのわたしは。 ――『冬物語』室生信子訳 と言い、さらに読み進むと、彼に聖骨を盗ませた悪い魔術師の存在が明らかになります。しかし、すべてはその悪者の仕組んだたくらみだったのかと思うと、実はさらに大がかりな、時の流れをさかのぼってくり返す、物語の枠組みが見えてきます。 原因が結果に、その結果が時を戻って最初の出来事の原因につながる、円環的ストーリー。そこには始まりも終わりもなく、同じことが永遠に繰り返されます。タイムワープを会得した主人公にとっては、以前書きました村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の博士の言う一種の“永遠の生命”なのかもしれません。 またそれは、カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』(これもかなり古い作品ですね)によると、 ・・・あらゆる瞬間は、過去、現在、未来を問わず、常に存在してきたのだし、常に存在しつづけるのである。・・・いったん過ぎ去った瞬間は二度ともどってこないという、われわれ地球人の現実認識は錯覚にすぎない。 ――伊藤典夫訳 人生をそんなふうに四次元的にとらえてしまうと、そこから抜け出せなくなってしまいます。 しかし、「冬物語」のヒロインは勇気を持って、自分の意志で別の人生を選び取るのです。運命だとあきらめずに、ただ一点でも自力で変えることができれば、堂々巡りの呪縛は解けます。そして、物語のラストでは、うってかわって夏の青く明るい海の情景が描かれます。冬物語を繰り返していたプレイヤーは、別の物語を自らつむいだのです。 さて、二つめの物語「アヴィリスの妖杯」は、うってかわってホラーです。原題はCompanions on the Roadで、後書きによるとトールキンの『指輪物語』第一部「旅の仲間(The Fellowship of the Ring)」を意識しているのではないかとのこと。なるほど、すばらしいが恐ろしい呪いをもたらす宝物をたずさえての旅、という点では共通しています。 しかし、趣きがかなり違って、こちらはちょっと怖いです。心理的にじわじわ恐怖に追いつめられていく天涯孤独な主人公の運命を思って、ハラハラします。次々に呪いの餌食になって死んでいく道連れ二人は、それほど凶悪なキャラクターではなく、ただ心の弱さに負けて命を落とすので、よけい怖いのです。 ネタバレしますと、それほど善人でない主人公ですが、ふと見せた素朴な思いやりの心のおかげで助かります。因果応報、小さな親切があなたを救う、といった感じです。そういえば彼だけは助かるような伏線があちこちにあったなと後から思うのですが、結末に至るまでは恐ろしい前兆現象にばかり気をとられるので、良きしるしにはあまり注意を払うことができません。 タニス・リーってほんとにストーリー・テラーだなあと、巧みな技を感じさせるお話でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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