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カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
脚の静脈瘤治療のため3泊4日入院していましたが、無事復帰しました。その間に病院の図書室から借りて読んだ本が、ジョーン・エイキン『ぬすまれた夢』です。
絵が緻密でうつくしく、井辻朱美訳ということで手に取りましたが、作者は『ウィロビーチェイスのおおかみ』など長編でも有名な人(ただし私は未読)。 メルヘンチックな短編がいくつか収録されていますが、どのお話もところどころ、「えっ!」というような要素がさしはさまれていて非常にスパイシーです。 たとえば、男の子がテニスラケットでチョウチョをたたいていじめていると、精霊が現れて怒ります。すると、男の子の片脚が勝手に胴体をはなれ、ぴょんぴょんとんだあげく、バスに乗って行ってしまうのです。男の子が抗議すると、もう片脚も! つまり脚の家出です。 挿絵には、シュガーバターのように甘く繊細なタッチで、脚のない少年が逆立ちして歩くところや、家出してパブで踊っている脚が描かれています。なんだか、ぞーっとします。 昔話にある残酷な側面、というのがよく指摘されますが、このお話はそれを意図的にメルヘンにはさみこみ、童謡の中に現代音楽的不協和音を響かせる、みたいなことをやっているようです。 結末もひねりのきいたものが多く、私が気に入ったのは、スコットランド特有の水怪ケルピーが出てくる話: 居心地の良い部屋の絵を得意とする画家の作品に、いたずらなケルピーが侵入。画廊に飾ろうとするとどの絵の部屋にも、おぞましい姿のケルピーが知らぬ間に描きこまれています。画家はあわてふためいて故郷の海辺に行き、姿を見せないケルピーに向かって絵から出て行ってくれるよう懇願します。ケルピーいわく、画家が少年のころ初めて描きたいと願ったこの海辺の光景を描いてくれ。・・・世に出て成功した画家の原点を突いてくるあたり、なかなかあっぱれなケルピーです。 画家はふるさとの物寂しい海辺の風景を描き、その作品を海に(=ケルピーに)献じます。これでケルピーは満足して絵から消え去り、一件落着したでしょうか? いいえ、皮肉なことに、彼が海辺にいる間に、町の画廊では彼の「ケルピーのいる部屋の絵」がすばらしい着想だと大評判になっていました。ところがほどなく、すべての絵からケルピーは消えてしまうのです。 町へ戻った画家はしかし、いまさら自力ではケルピーの姿を描けません。ほんもののケルピーは彼の前には一度も姿を見せなかったのですから。 ・・・ケルピーって何だろうと考えさせられるお話でした。心地よい絵に突如侵入していたケルピー、それはちょうど、この本の心地よいメルヘンに突如侵入してくるぶきみにブラックでシュールなイメージのようです。脚は胴体から逃げだし、お姫様の髪の毛は悪口雑言を吐き、お風呂に現れた蜘蛛はみるみる巨大化し、増殖します。 思うに、キレイな絵空事的ファンタジーは心をなごませるけれど、それのみでは存在し得ないのです。エデンの園にヘビ(サタン)が出たように、フェアリーランドには危険な竜や不気味な洞窟が必ずあるように。 画家の絵はキレイだったけれど、画竜点睛を欠いていたのでしょう。そこには、この世の不条理の化身たるケルピーが加えられる必要があったのです。不条理の化身というと印象が悪いですが、実はそれは理屈ではとらえきれない、真の芸術的インスピレーションなのかもしれません。 画家が初めてケルピーに話しかけられ、世界一の画家になりたいという願望をもらすのは、少年の頃でした。彼は、見たことこそないけれど、じつは少年時代からケルピーを知っていたのです。ぐんぐん重くなる亀の甲羅(ケルピーが中にいたようだが、気づいたときにはからっぽだった)を運ぶ少年の彼は、すでにケルピーという不条理/天与の才能をかかえて人生を歩み始めていたのでした。 ・・・なんてことを考えながら何度か読むと、挿絵に描かれたケルピーの姿(頭が馬で下半身が魚。最近、いろんなゲームにかわいい姿で登場したりしているようですが、本来は人外魔境的不気味な妖怪)もなんだか親しみ深く感じられました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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