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HANNAのファンタジー気分

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April 14, 2016
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カテゴリ:これぞ名作!
The Last Unicorn 少し前にとりあげた『アンチ・ファンタシーというファンタシー』(黒田誠)に、興味深い指摘が載っていました。
 P・S・ビーグルの『最後のユニコーン』には「作品に描かれた主題を嘲笑すると同時に親しみ深いものにする拍子抜けするような事項の羅列というさり気ない仕掛け」(前述書より引用)があるというのです。

 何だか難しい表現ですが、つまり、物語を読むと気づくことですが、一角獣を主人公に据えて格調高い中世風のファンタジー世界を構築すると見せかけて、時々、わざと不似合いな現実的・現代的アイテムをまぎれこませているということ、たとえば私が気づいたのは、

  「ハガード〔王〕は彼女〔魔女〕に一銭も払わなかった」・・・「彼女は丁重に扱われ、適当な関連役所を教えられたのですが・・・」「そのときでした。魔女がハガードの城と同じように、わたしたちの街にも呪いをかけたのは。」
        --ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーン』鏡明訳(太字はHANNA)

 これは強欲な王が城を建てた魔女に報酬を払わなかったので、恐ろしい呪いがかけられたという典型的ファンタジックな設定を説明する場面なのですが、ここになぜか「適当な関連役所」という卑近で実用的すぎる言葉が使われているのです。これでは、呪いの恐ろしさも半減してしまいそう。

 黒田氏はこれを「アンチクライマックス」と解説して、このような「漫画的」な描き方が、作品世界を突き放してアイロニカルに読者に見せつける、独特の手法であると説明しています。なるほど。

 もちろん、私も『最後のユニコーン』のあちこちに、現代風な事物や表現が挿入されていることに気づいていました。ただ私は、この物語の舞台はじつは現代で、それをわざと古風な舞台に置き換えて語っているのかなと理解して、さほど問題視していませんでした(以前の日記参照)。

 今回、アンチクライマックスあるいはアンチファンタシーなる解説を知ったわけですが、それにしてもなぜ私はそういう手法に最初からあまり違和感を覚えなかった、むしろ心地よい親近感を感じる気さえしたのか?と、自問自答してみました。
 その結果、この手の「ツッコミ」は関西人的日常で普通だから、そしてコミックスで見慣れているからだと気づきました。コミックスに見られると言っても、黒田氏が使った「漫画的」=コミカルな とはまた別の意味です。

 決してギャグ漫画ではないコミックスの、ごくシリアスな場面に、時として挿入される小さな「ツッコミ」--これは本筋とはまた別の、独特の味わいや魅力をもたらします。たとえば、誰もが?知っている『ベルサイユのばら』(作品自体も、作品世界も古典と言えましょう)で、ノワイユ夫人が若いアントワネットを叱る場面;

  いいですか!? ここはもうオーストリアではございませんのですよ!/それにアントワネットさまはもう自由に遊び回られたころの子どもとはわけがちがうのです!/ベルサイユではとくに礼儀や洗練された作法が重んじられています/それなのに王太子妃ともあろうお方が……!
                                --池田理代子『ベルサイユのばら』

 セリフだけ読むとここには冗談の余地は全くないのですが、絵を見ると叱っているノアイユ夫人の顔は滑稽にデフォルメされています。そして上記の正規のセリフ(印刷された活字)とは別に、ノアイユ夫人に向き合って叱られているアントワネットの絵の横に「あっ虫歯がみっつ!」という手書きの「ツッコミ」が記されています。

 この「ツッコミ」はアントワネット視点で書かれたものですが、いくら天真爛漫なアントワネットが叱責を馬耳東風と受け流したとはいえ、虫歯を数えるのは時代錯誤な感じ(もっともエリザベス1世は虫歯だったらしいからこの時代も虫歯はあったでしょうけど)。
 この虫歯に関するコメントは、現代の若者ならきっと説教している先生の大口に、虫歯を見つけて数えてしまうだろうということで、読者の目に留まるよう、欄外的、というか、落書き的に記されています。息抜き的読者サービスであるとともに、時空を超えてアントワネットに親近感を抱かせ、また、一歩引いた視点からノアイユ夫人とアントワネットのテンションや物の見方がかみあっていないことを示す効果もありますね。

 私の好きな川原泉のコミックスなどには、作者自身の視点からのツッコミもよく出現し、場面の冷静な把握やアイロニカルな味を出すのに効果を発揮しています。

 この手のツッコミは小説でも時々見受けられますが、書き手がツッコミであからさまにしゃしゃり出ると、コミックスの時とくらべて、筋運びがともするともたついたり、うるさく感じられることもあります。その点、ビーグルの語り口はごくさりげなくて、アイロニカルでありながら嫌みがないところが◎ですね。

 ・・・と、あらためて『最後のユニコーン』の良さをかみしめたHANNAでした。良い作品は何度読み返しても、そのたびに味わいが深まります。





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Last updated  April 15, 2016 01:27:02 AM
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