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カテゴリ:これぞ名作!
いよいよラストです。30番目(最終話)は、第1話およびこれまでの短編の連なりを説明しているようです。
扉があり、その向こうは「迷宮」で「だれでもない者」=「牛の頭の怪物」がいます。こちらから扉をくぐっていったん迷宮に入った「英雄」は、迷宮の唯一の住人(怪物)と一体化してしまう。そして二度と戻って来ない、という設定です。 この怪物こそ、第1話の孤独な主人公「ホル」ですね。ドイツ語でも「英雄」と「主人公」は同じ言葉(Held)。しかし迷宮では主人公=“個人”は融解しだれでもない、しかしすべてをふくむ人格となるようです。そして、第1話から29話は、迷宮内で主人公が次々と転生した物語だ、と。 心理学用語で言うならば、迷宮世界は、人類の意識の根底にある集合的無意識の世界でしょうか。 たとえば、文化英雄と呼ばれるキャラクターが、そこでかたちづくられるように思います。いろんな人物の物語や業績が、一人の英雄の為したこととして伝説がふくらんでいくわけです。 話がそれていきますが、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』では、主人公のウサギたちの冒険は、後の世代に語り継がれるとき、ウサギの文化英雄エル=アライラーの冒険譚に加えられ、伝説として永遠化されます。普遍的な英雄の冒険譚となることで、時空を超えてまたよみがえり、他のウサギたちの知恵や勇気のもとになっていく。 これは、ファンタジーの本質として、トールキンが論じている「物語の大鍋(スープ)」とか「伝説は歴史と出会う」(「妖精物語について」より)ということと共通しています。 つまり、迷宮の中ですべての英雄(主人公)たちはスープのように融合し、伝説の一人となり、さまざまな物語をふくんだ豊かな文化土壌となって、必要なときには現世にフィードバックされるべき、なのです。 ところが、第30話の現実では、だれも迷宮から戻ってこないし、 私たちにはだれの記憶もありません。 われわれの記憶は、この敷居までしかとどかない。 ミヒャエル・エンデ『鏡の中の鏡』丘沢静也訳 実際に、目の前で英雄が扉の中に消えたのに、番兵たちは次の瞬間には彼の存在を忘れてしまいます。これはどうしたことでしょう。 第1話で、すでに「迷宮」という副題や「牡牛と葡萄」というとびら絵から、異世界の孤独な主人公「ホル」は、ギリシア神話のミノタウルスではないかと予想できますし、第30話では、彼を「腹違いの弟」だと言う王女が登場します。ギリシア神話によると彼女はクレタ島のミノス王の娘アリアドネ。英雄テセウスに恋して一巻きの糸を渡し、彼がミノタウルスを退治したあと無事に戻れるようにしたとされています。そう、テセウスは怪物退治という物語をひっさげて、戻ってきたのです。 しかし、エンデの物語の舞台では、王女はすでに三千歳で、迷宮は廃墟となり、扉のある城壁の一部が残るのみです。ぐるっと回って扉の反対側に行ってみても、何もありません。番兵は、何のためか分からずに儀式的に扉を守り続けています。辺りは、クレタ島にはあるまじきことに、雪が積もっています。 (ところで、このような、くぐらない限りただ忽然と在るだけという異界への扉や門は、ファンタジーではおなじみのアイテムです。『はてしない物語』の「鍵なしの門」がそうですし、C.S.ルイスもナルニア国シリーズでアスランの作った門(『カスピアン王子のつのぶえ』)などを描いています。) クノッソス迷宮は三千年前にはこの世界にあり、扉も正しく機能していました。ところが今、迷宮は異次元にしか存在しなくなってしまいました。そして、ほんとうは何人も送りこまれているのかもしれないけれど、誰かが入っていくところなど番兵たちは見た記憶がない。もちろん、戻る者もいない。 ここにまた、世界と世界の絆が断ち切られた状態があると思われます。 『はてしない物語』を思い出してみると、扉の向こうの迷宮は集合的無意識=物語の大鍋という意味で「ファンタージエン」と等しいとも言えるでしょう。 現世とファンタージエンとの絆が切れて世界が滅びの危機に瀕していたように、第1話のホルは文化英雄とはほど遠いありさまで永遠に迷宮をさまよい、豊かな記憶/体験のストックのあるじとなるかわりに「体験は…彼の心におそいかかる」。 そして、現世は冬枯れてわびしく、王女は切り離された「血をわけた兄弟」を不憫だと言いながら立ち去ります。扉の上で輪をかいているワタリガラス(滅びの象徴?)が不気味です。 以上、長きにわたって、おもに「断ち切られた世界の絆」という観点から、感想を書きつづってみました。 読めば読むほど、書けば書くほど、奥深い迷宮世界でした! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 30, 2017 12:50:42 AM
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