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HANNAのファンタジー気分

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April 15, 2018
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カテゴリ:これぞ名作!

 このブログでもご紹介したファンタジー『最後のユニコーン』の研究をなさっている、黒田誠さん(和洋女子大准教授)から、先日(といっても2ヶ月ほど前)、コメントをいただきました(!)。
 黒田先生によりますと、『最後のユニコーン』は今年、出版から50周年きらきら
 これを記念して、アニメ『The Last Unicorn』関連の展示会や講演会が行われたそうです(残念ながら関西の私は行けなかったのですが…)。
 さらに、ビーグル、トップクラフト研究推進委員会」が設立され、今後もシンポジウムの開催などが計画されているそうです。

 (トップクラフトというのはジブリの前身とされるアニメ制作会社で、『最後のユニコーン』のほかにも、バクシ監督のアニメ『指輪物語』の続き(私は観ていませんが)を作ったりしています。)

 講演会の資料をいただいて読んでみますと、『最後のユニコーン』に出てくる悪役「赤い牡牛」(レッド・ブル)に関する考察や、アニメ版にのみ登場するカラスの意味するもの、など、興味深い話題がいっぱいです。

 それで、久しぶりに原作を読み返してみました。

 主人公ユニコーンに対する敵役「赤い牡牛」は、何度読んでもすごく強烈な印象で、そのくせ最初から最後までつかみどころのないキャラクターです。
 これは黒田先生のブログへコメントさせていただいた中にも書いたのですが、ユニコーンが存在感があり、登場当初から細かに描写されて、シュメンドリックたちや読者の愛・憧れを受けていくのと対照的に、 赤い牡牛Red Bull は名のみ明かされ、なかなか登場せず、やっと登場したと思ったら幻像のように不気味に実在感がなく、動作も不可解。あとの城の場面でも長らく気配のみで詳細は不明。それなのに、いや、不明だからこそよけいに読者をふくむみんなの恐怖感をあおるのです。

 訳者あとがき(by鏡明)を見ると、作者に物語のインスピレーションを与えたのは、一角獣と牡牛が戦っている絵だそうで、だとすると牡牛にはもっと具体的な描写(存在感)があってもいいのに、と思うのです。
 でも、詳細があいまいだったり実在が疑われたりする方が、よりミステリアスで怖い、ということもあります。決まった形のお化けが必ず出てくるつくりもののお化け屋敷より、お化けの噂だけがある荒れ果てた廃屋の何もない空間のほうがよほど怖いということです。
 大きさも実在性も出自もあやふやな「赤い牡牛」は、矛盾するいくつかの噂だけだからこそ、いっそう皆の想像力をかきたて、怖いのでしょうね。

 ユニコーンの白と、牡牛の赤。そんな対比も、強烈です。しかも、白は白でもユニコーンの白は月夜の雪の白。牡牛の赤は、古い血(静脈血)の赤。どちらも年を経て古く、不変/普遍な感じがします。

 もう一つ、いま前半を読んでいて印象的なのが、「黒」を意味する名を持つハーピイ(人面鳥)のセラエノ(ケラエノ)です。ギリシャ神話に出てくる怪物で、牡牛とは別の形で、ユニコーンの対極として登場します。
 私の感じるところでは、ユニコーンが月のよう(彼女の描写には月がよく使われています)だとすれば、ハーピイは蝕(日食とか月食とかの「蝕」)の魔物です。日食や月食は、太陽や月を魔物が食べてしまう/覆い隠してしまうから起こる、という神話伝説がよくあります;

  日輪を喰い銀輪を屠るもの  ーーあしべゆうほ『クリスタル・ドラゴン』

  日蝕(エクリプス)が栖(す)から跳びだし、黄金の鞠〔=太陽?〕に躍りかかると前足でそれを捉えた。  ーーロード・ダンセイニ『ペガーナの神々』荒俣宏訳

 空を飛ぶもの(鳥)であり、「翼で空を暗くさせ」たり月を隠したりまた出したりしているところからも、また不気味に髪の毛や翼が光っているところ、ユニコーンと対になって「連星」のようにぐるぐる回るところからも、セラエノは天空の闇の精エクリプス(蝕)で、月の精であるユニコーンのライバルだなと思うのです。





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Last updated  April 16, 2018 09:02:05 PM
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