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HANNAのファンタジー気分

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August 1, 2022
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​ ​やや難解な作品の多いマキリップの初期の長編。むかし山岸凉子が表紙や挿絵を描いてました(再版の表紙は違う人→)。訳者の脇明子さんが『指輪物語』と比較しているので、当時、意気ごんで読みましたが、いやいや洞察力と推理力、構成力がすごく必要で、しかも鋭く細やかな感性がないと楽しめないという、なかなかハードな作品です。

 今回、再読してみて、異世界の舞台が南の方はなんとなくケルトの「マビノギオン」的な舞台だな、物言う豚とか死者の軍勢とか、「変身術者」はアイルランドの古い神々そっくりだとか。中央の古代遺跡はストーンヘンジのたぐいみたいだし、北の方はゲルマンや北欧系(鉱山とか雪原とか)だな、などと楽しむ余裕ができました。

 全体を貫くテーマは“謎解き“。舞台となる異世界では、すべて物事の理解は謎解きという形で成されます。主人公モルゴンは大学で謎解きを学ぶ。いくつかある国々の歴史や成り立ちも謎で構成されている。領主や魔法使いは謎解きの試合をする。そして、否応なく探索の旅をするモルゴンの使命も最後の最後まで謎!

 トールキンは異世界の解説を大量に提示してくれますが、マキリップの作品は予備知識なしで放り込まれる系なので、読者は、登場人物たち以上に頭の中が謎だらけのまま読み進めねばなりません。

 けれど、荒俣宏『別世界通信』によると、ファンタジーのルーツである神話には、世界や人間を理解するのに謎解きが重要な要素として出てくるのです(スフィンクスの謎とか)。だから、『イルスの竪琴』の世界や登場人物、ストーリーを理解するには、読者も謎ときに参加するしかありません!

  幻想文学が宇宙の本質に迫ろうとするとき、それは必然的に神話じみた謎かけへとすがたを変え…[中略]…入社式(イニシアシオン[成人式])のための謎ときを読むものに挑みかけるとき、それは試練への愛にまで昇華する。    ――荒俣宏『別世界通信』[旧版にも新版にもあり]

 こうして、わけがわかんないなあと不満をもらしつつも、謎解きにはまって読み進むことは、モルゴンが故郷の素朴な暮らしに戻りたいと何度も願いつつも、結局は自分の出自や世界の謎を解くために危険な探索へと突き進むのと、同じなんですね。
 ファンタジーの効用は、主人公の冒険を読むことによって、読者も異世界体験をして成長したり癒やされたりすることにある!というわけです。

 そして、突然襲ってくる得体の知れない「変身術者」たちや、そもそもこの異世界の秩序の主として名だけが何度も出てくる「偉大なる者」って何なの? なんで戦ってるの? モルゴンはそれとどう関係があるの? それがちっとも分からないまま、何百ページも物語が進んでいきます。もちろん最後には次々わかってきますけど、正解は次々予想外。いや、後から思えばなぜ予想できなかったんだろうと思うのですが、うまく作者に手玉にとられてしまうんですね。
 探偵小説なら理屈や証拠の品が伏線になるのだけど、マキリップは感性の作家なので、感情や感覚が伏線といったらいいのでしょうか。とにかく、異世界丸ごとを解き明かすミステリー。
 もちろん魅力的な登場人物たちや、魔法のたぐいもたっぷりです。





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Last updated  August 2, 2022 12:23:47 AM
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