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テーマ:ファンタジー・児童文学(31)
カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
近ごろは電子版でも読める、1970~80年代の「オレンジ党」の冒険3部作と、関連する短編集『闇の中のオレンジ』をご紹介。(2011年に4作目『オレンジ党最後の歌』が出ているらしいのですが、私は未読です)
小学6年生(いつも注目! 子供時代の終わり、最強の子供たち)が主人公で、シリーズ名通り3種類の魔法がせめぎあう設定。ただし、ダークです! 単に暴力的、悲劇的というより、不穏で後味の微妙な、忘れがたい印象を残すお話ばかり。 まず、個人的な感想ですが、見知らぬ荒々しい異界のようでありながら現実の日本と思われる舞台背景が、無気味。 モデルは千葉県らしく(作者は、物語とは無関係と断っていますが)、ああ、だから土地が広々として沼地や泉、落花生畑や牧場があるのですね。関西人の私にはなじみのない、原野、寄せ集めの森、荒れ地を開墾した畑、その中に忽然と現れる新興住宅地、広漠とした丘陵地帯。そこで次々ときみわるい出来事が起こるので、ちょっと悪夢じみています。 第1作『オレンジ党と黒い釜』では、転校してきた主人公ルミの日常を、黒泥や黒いナメクジのような怪異が浸食します。《グーン》の《黒い魔法》が残した穢れだというのですが、先日観たアマプラドラマ「力の指輪」にも、オークに穢された土地の牝牛が、黒い乳を出すシーンがありましたっけ。 穢れは5つの「黒い釜」として地中に封じられたのに、漏れ出て復活したのです。『闇の中のオレンジ』中の短編「《グーン》の黒い釜」では、土と水が汚染され作物が育たないと説明されています。植物の精霊たちは五郎と妹を連れ、ノアの方舟を思わせる古代船で時を超えて脱出しますが、おかあさんは、 もうだめ。畑はみんなだめ。黒いもの。子どもたちも行ってしまう。あたしにはもう何もできない。もう生きてけない。 と書き残して首をつります。日常に突然現れる衝撃的な“死”。 2作め『魔の沼』では広がる黒い沼の怪異がメインです。行方不明の妹を探す中学生キヨシ(京志)が登場しますが、その妹は沼の王の養女にされ、黄泉の国のような異界にとらわれているのです。赤い目隠しをして下の妹を抱いた、巫女のようなチサは、最後まで兄と巡り会うことができません。 おまけに、黒い沼の出現と呼応して主人公ルミの体内で「黒い汁のつまった部分」が発動、命が危険になります。必死に解毒薬を煎じるルミ。善の側の純粋な主人公の内部に「黒い汁」が巣くっていたというのが、かなり無気味です。 思春期前の子供の物語には“死”の恐怖が出てくる、と以前も書きましたが、このシリーズは特に“死”に満ちていると言えます。ルミをはじめオレンジ党の仲間たちは全員、母親を亡くしています。それも、《黒い魔法》を封じた時に手を貸した《古い魔法》の犠牲(いけにえ)となった、というから恐ろしい。 邪悪な《黒い魔法》は、第3作『オレンジ党、海へ』でさらに強大な、「空飛ぶ黒い影」や「黒い太陽」となって猛威をふるいます。要らない大人の知識で読むと、飛行機や原発が連想されてしまいます。 じつはこのシリーズの舞台と時代は成田闘争(空港建設反対運動)と重なっていて、「農民ゲリラ」を名乗る大人たちが出てきたり、「緑衣隊」(機動隊?)が官憲をふりかざして踏みこんできたり。 邪悪の源ともいえる「黒い太陽」の力に惹かれて、白衣の研究者はマッド・サイエンティストと化し、「空飛ぶ黒い影」の被害者だったはずの「鳥の王」すら、その力を欲して悪に堕ちます。 40年前悪さをしたという《グーン》は“軍”、旧日本軍でしょうか。戦後、軍から払い下げられた土地を懸命に開拓した農民たちが、空港建設によって再び土地を失い、反対闘争、暴力、利権争い、仲間割れなど混迷するありさまを念頭に、作者はこの物語をつむいでいったようです。 ところで、私は昔、成田闘争で過激派と呼ばれた島寛征という人の、 棲家を奪われた野槌(土地の精霊)たちがひそかに逆襲の相談をしている というような文をどこかで読んだ記憶があるのですが、『海へ』を読んだとき、この文が恐ろしいイメージとして何度もよみがえりました。 今度は、そんなダークで敵味方錯綜する大人たちに対する、オレンジ党の“光”について……次回。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 4, 2022 01:00:38 AM
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