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６月17日に千葉まで遠征して「フィガロの結婚」を見てきました。

狂言師、鼓の奏者、人形遣い、そしてドイツの管楽団の協同作（コラボレーション）。

企画者側は「狂言ふうオペラ」と名付けているのですが、「オペラふう狂言」と言ったほうが印象は近いのではないか。

アリアが歌われるわけではなく、演劇としてはあくまで
狂言の語り口で台詞が語られていく。
（といってもときどきコミカルに現代語へ吹っ飛ぶ“脱線”があるのですが。）

オーボエ、バスーン、クラリネットを中心とした
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン管楽ゾリステンが、
劇の展開に沿って「フィガロの結婚」の有名なナンバーを聴かせてくれますが、
その節回しに狂言師が台詞を合わせて謡うといったことはありません。


見かけは狂言ながら「フィガロの結婚」のあらすじを思いのほか忠実に追う。

オペラ冒頭の、部屋の寸法をものさしで測るところや、
結婚式の最中に新婦が伯爵へ、一計を案じた“恋文”をわたす場面。

そして、劇終末の、庭の待ち伏せシーン。

伯爵夫人に化けた新婦の正体を声で見破りつつ、わざとこのニセ“伯爵夫人”に言い寄ってみせる新郎。
浮気心を責める新婦にボコボコに叩かれつつ、「正体を知っていたからこそ言い寄ったのだ」と明かす

……というようなディテールまで、もともとの「フィガロ」の世界を模写していて、

オペラそのものを知っていれば、２倍楽しめる作品でした。

ケルビーノ（→狂言では「天丸」という名に）が伯爵夫人の窓から飛び降りるところまで、
狂言師さんが舞台から客席へ飛び降りることで再現していました。
（１列目で見せていただいたわたしの、50センチほど前に着地なさいました！）


千葉県文化会館の観客はノリがよかった。頻繁に笑い声が起きていた。

ドイツ人の管楽団員さんたちが全員で突然立ち上がって
「セクハラ反対」
と日本語で演劇のなかに“飛び入り”してくれるあたりから、
コミカル空間だというメッセージは、びんびん。

狂言も管楽演奏も一流でありながら、このあそび。
ゼイタクのひとつの形です。

伯爵（→狂言ではあくまで「主人」ですが）を演じた茂山千之丞（しげやま・せんのじょう）さんは平成11年に紫綬褒章をうけられたほどの狂言界の重鎮。

その極められた藝が“あそび”をすることほど粋なものはない。

劇のフィナーレでは、フィガロの「結婚」にふさわしく、正調「高砂」の謡いを聴かせてくださるかと思えば、

３度目のカーテンコールでは、その同じ茂山千之丞さんが
観客の歓呼に投げキッスでこたえておられました。


ドイツの管楽団は一旦帰国し、９月に再来日。
９月22日は「岐阜県県民ふれあい会館」、９月24日は「所沢市市民文化センター」で再演が予定されています。