テーマ:最近観た映画。(39940)
カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
どうもぼくは、独裁国家の襞(ひだ)に棲息する愛
を描く作品が好きらしい。 ジョージ・オーウェルの『1984』の現実版といえばいいか。 オーウェルを意識したのかどうか、じっさい、映画の設定は1989年の「壁崩壊」の5年前の東ベルリン、 1984年なのである。 ドイツ語原題は “Das Leben der Anderen” (「他人たちの生活」)。 そういう素っ気ない題名のほうが似合っているような気がする。 劇作家ドライマンと、同棲する舞台女優クリスタの愛を盗聴する、国家保安省局員のヴィースラー。 盗聴器の向こうから聞こえる愛と自由への渇望によって、そして劇作家の弾くソナタの旋律で、局員ヴィースラーの冷徹に小さなヒビが入り、 そしてそのヒビはひろがるばかりだ。 もともと極度な自己抑制で生きてきたヴィースラー。 自己抑制のもう一方のバランスを求めるのが人間の自然な心理だ。 彼の心境のじわじわとした変化も、人間の自然な心理の発露として納得性をもって描かれている。 映像は地味。だから現実感がある。 東ドイツのStasi(シュタージ)は国家保安省の略語で、ソ連のKGBにあたる。 「壁」の崩壊後、Stasiが国民監視をして蓄積してきた膨大なファイルが公開されて話題になったが、 今でもなお、壁の崩壊時に破砕された書類を復元する作業が行われている。 たぶん、ドラマの宝庫のはず。 ぼくはこういう「独裁国家の抑圧」ものに大いに興味を引かれるのだけど、一般受けしにくいだろうか。 映画の題名、ぼくなら「シュタージの愛」とつける。 シュタージには、「保安省局員」とルビをふる。 皮肉と逆説をこめて。 この映画は、政治ものであり、(エロではないが)愛欲ものである。 日本版の「善き人のためのソナタ」という題名は、まじめすぎて、潜在的観客を逃がしてしまわなかったか。 壁の崩壊後のある日のできごとを描いた映画最後の1分間に、からだを電流がかける感動があった。 「報い」というキーワード。 (関連サイト↓) http://www.yokihito.com/ (開くとしっとりとしたソナタのピアノが響きだす) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jun 28, 2007 08:55:10 AM
コメント(0) | コメントを書く
[映画・演劇(とりわけミュージカル)評] カテゴリの最新記事
|
|