カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
去年、江守 徹さんのシラノを観て、フランス全国民の嫌らしいところの対極を一人に注ぎ込んだような傑物シラノの比類なき心意気に打ちのめされてしまった。
さぁ今年は市川右近シラノに、安寿ミラさんのロクサアヌだ。 産経の8月31日の劇評がいささか書きすぎで ≪市川右近のシラノは、歌舞伎仕込みの弁舌が巧みで……≫ ≪斎藤実盛、梶原景季、熊谷直実ら源平合戦の歌舞伎ヒーローにだぶることが、芝居にぐっと厚みを加えた≫ などとあるものだから、てっきり歌舞伎の舞台よろしき名調子や大見得のジャポネスク演劇をみせられるのかと思ったが そうではなく せりふ回しはごくオーソドックスで、辰野 隆・鈴木信太郎の名訳に身をまかせた。 <↓ 昨年11月12日の江守 徹シラノの劇評ブログ> http://plaza.rakuten.co.jp/yizumi/diary/200611120000/ 江守徹さんに比べると市川右近さんは「やんちゃ」なシラノで、第一幕前半しばらくは怪傑シラノのイメージをくずされて閉口したのだけど、 これに第一幕後半以降のシラノが好対照をつくり、 最終章の修道院の場面に至って俄然、いぶし銀のように渋いのに観るものを酔わせるその心意気がきわだつ。 安寿ミラさんのロクサアヌは、春の陽のようにうつくしかった。 ミラさんは冒頭、劇場の物売り役なども演じてみせるのだが、こちらはうらぶれた老いが出ていて、てっきり別の女優さんと思った。 最終章の、落ち葉ちる修道院の庭の場面、華麗な恋文をくれた人が目の前のシラノだと知る瞬間のロクサアヌの放つ「気」が劇場にあふれて、ぼくは髪の毛まで立ち上がってしまった。 やんちゃなシラノに対して、恋の言の葉にひときわわがままなロクサアヌを演じる安寿ミラさん。 はまり役だ。 ミラさんくらいの年齢で、かつミラさんのように美しいひとが演じるのが、ロクサアヌにはもっともふさわしい。 青山円形劇場の周囲の壁は歌舞伎ばりの三色幕で飾られ、客席に囲まれた舞台中央には2段の円形台があるばかりというシンプルさ。 わずか7名の役者さんが50に及ぶ役を取っ替え引っ換えこなしてゆく。 去年の江守 徹さんのシラノは文学座の公演で、群衆シーンもぜいたくに取り入れ、大道具さん大活躍の舞台だったので、初めてのぼくにも設定がひと目で見て取れた。 今回の青山円形劇場の舞台、すでに筋を知っているぼくは十二分に楽しめたのだけど、シラノが初めての人たちにはどうだっただろう。 極度のシンプルさが、ちょっときつかったかもしれない。 そういう舞台もあっていいのだろうけど。 歌舞伎ふうといえば、第一幕冒頭の拍子木をはじめ、シラノの入退場などにアクセントとして使われる附け打ちの音が絶妙だった。 助演役のなかでは、市川猿弥さん演じるパン屋の亭主ラグノオが、滑稽のなかにも哀感あふれ、いい味があった。 <↓ 今回の青山円形劇場公演のサイト> http://www.majorleague.co.jp/stage/cyrano/index.html お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Sep 2, 2007 11:11:38 PM
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