カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
9月22日は台北で朝のフライトに遅刻するという大ボケをやってしまった。
「お客さまのお席は10分前にキャンセル待ちの方に差し上げてしまいました。残念ながらもう満席です」 とカウンターの係員に中国語で言われて、両手で髪を掻きむしりながらその場にうずくまってしまった。 午後便に乗った。上野から渋谷へ高速をとばしたら、公演開始10分後に会場に着けた。 香坂夏希さん。 キュートな獣の目をしている。はじける存在感。 9月22日は香坂さんの千穐楽だった。 5月半ばに演劇「祝祭の路地」の香坂さんをブログで褒めたのだが、それを香坂さんのマネージャーの成富聡一さんが覚えてくれていて、今回の公演へのお誘いのメールを呉れた。 「Time Trouble齢30」はタイムトラヴェルものの3人劇。 劇団「虎のこ」の制作で、香坂さんは別プロダクションからの出演(客演)ということになる。 3人劇なら香坂さんの役者ぶりを存分に見られるだろう。 台北出張で一旦あきらめたのだけど、やはり舞台を観てみたい気持ちが日ごとに募った。 「切符を取っておいてください」と返信した。 (↓ 香坂夏希さんのサイト) http://www.feathered.com/talent/natsuki_k/ 女性3人が8年前に起業した浴室用品輸入代理店。 きまじめな営業担当者の香山(香坂夏希)がふと思い出にふけった拍子に2007年12月から1999年8月へ来て、戻れなくなってしまう。 その8月は、結婚するかどうかいまだに迷っている相手の「鈴木さん」と会って間もない頃。 その日の午後はハプニング続きで香山の記憶に鮮明な数時間だった。 その1999年8月の午後が何度も繰り返し、時間はそれ以上さきに進まない。 自分は8年前の午後の数時間に閉じ込められてしまったのか……。 あせり、苛立ち、焦燥、狂騒。 そのあたりからいきなり舞台がスタートして観ている側に謎解きを迫るから、前半は取っつきにくい。 他のふたりはコミカルな掛け合いをやっているのに香山だけが気を張って無口に坐っているかと思うと、やおら電話の受話器を手にとって躁状態になる。 舞台に顔を見せない「鈴木さん」への思いだけは確実に高まる。 このまま不条理劇に堕するのかと心配したが、劇の後半はロジックが浮上する。 ようやく2007年に戻ることで時間移動方法の秘密を知った香山は、1999年8月のハプニング続きの午後を修整してハッピーな2007年を実現しようと思いつく。 この辺から舞台が俄然おもしろくなる。 前半に見たハプニング続きの午後が舞台で繰り返されるのだが、そこに次々に修整を入れてゆく香山。 そして満を持して2007年に戻ってみたら、いとしく思う「鈴木さん」の存在が消えてしまっている。 過去をいじったことへの、とんでもないしっぺ返しだ。 「鈴木さん」を取り戻すために 香山は1999年と2007年を何度も行き来して修正を試みるのだが……。 不自然な台本が災いして前半やや精彩を欠いてみえた香坂夏希さんでしたが、1999年夏の修整を思いついて実行に移すあたりから俄然生き生きとしてきて、 2007年に戻って「鈴木さん」を失ったことを知る瞬間の喪失の衝撃感は、ぼくの背骨に電流が走るように伝わりました。 劇後半は香坂夏希さんに感情移入して悲しみと喜びを共にできるいい舞台でした。 共演の矢的彩子さん、伊東千夏さんが役者業に手馴れていて、 そのなかで香坂夏希さんがやや浮いていたようにも感じられましたが、これは言葉がこなれていない台本のほうに根本の問題あり。 時間移動者の役はじつに演じにくい。 この劇の台本は女性3人で演じるヴァージョンのほかに、男性3人で演じるヴァージョンもある。 過去に演じられた男性版、女性版のDVDを両方買って自宅でみたのですが、 女性版は「時間移動者」役がミスキャストで最初の10分で見る気がまるで失せてしまった。 (ブログに書く都合もあり、義務感だけで最後まで見ましたが) 男性版は3人それぞれに掛け合いも冴えていて、 「あぁ、やはりもともとは男性3人を念頭に置いた台本だったんだな」 と知れましたが、それでも香坂夏希さんの演技ほどに感情移入はできなかった。 さて、劇が終わって、ビル前の公衆電話から友人に電話しようとしていたら、成富マネージャーが「泉さんですか?」と声を掛けてくれた。 (スーツケースと背広姿で、わたしだと分かったようです) そのうち香坂夏希さんも来てくださって、少しだけ話ができました。 「じぶんは緒川たまきさんがとても好きなのだけど、香坂さんも緒川さんみたいな存在感のある役者さんにきっとなれると思う」 と、それだけ伝えられたから満足です。 香坂夏希さんが優れた台本と演出に恵まれて実力を研けますよう、お祈りしています。(成富マネージャー、たのみますよ!) 目のきれいな人です。 夏希さんの素直な笑顔を育んでくださったご両親に感謝です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Sep 26, 2007 12:46:04 AM
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